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16集9

花鳥抄       花城可裕

春過ぎて夏来にけらし白妙の桐の花咲く高砂の山

川隅の布袋葵の(へ)に佇てる箆鷺一羽二羽三羽五羽

月橘の香り仄かに下り来るだらだら坂の上の逃げ水

陋巷の古廟の庭のがじまるの鳥と語らふ千枝のそそやぎ

学び舎に鳳凰木の花咲けり空には雲のひとつだに無く

棕櫚の芽は天を指差すたかだかと天上天下唯我独尊

阿勃勒(あぼつろく)花は散れども敷石に黄金の雨を降らせたり

行き惑ふ人を導く旅人木千手観音菩薩の如く

漁翁(むらぎみ)の投網に掛かる雲の峰逆さに映る椰子の(うれ)なる

特牛(ことひ)すら殺す毒持つ美人木散りてさへなほ艶を忘れず

破れ芭蕉打ちて降り初む木欒子(むくれにし)色無き風のビルの谷間の

春過ぎて夏来にけらし白妙の桐の花咲く高砂の山

 

 

 

いにしへの日に                   傅仁鴻

いにしへの日に夕映えの空仰ぎ列なす雁を見しわれ幼し

いにしへの日に住む家の近くには広き草原ありて楽しき

いにしへの日に母の手の健やかに豊かであれとわが髪撫でた

いにしへの日に弟よ君を泣くと切ない詩を晶子作りし

いにしへの日に子供らに安らぎのあれと神様羊雲出したり

いにしへの日にリズム良き歌歌ひ大地を強く踏みつつ歩きけり

いにしへの日に足るを知る安らぎの心を持ちて日々は明るし

いにしへの日に遭遇し君を知り君以外何も見えなくなりし

いにしへの日に軍艦の数多くヒトカップ湾に集まりにけり

足たたばエトロフ島の丘に立ちヒトカップ湾眺めて見たし

いにしへの日に君をだけ愛すると瞳に光る涙で言へり

いにしへの日に涙ぐみ佇みてしょんぼり見てた遠い浮雲

 

 

 

雑詠            潘達仁

四五匹の野良猫の群が枝渡るリスを窺ふ吾も目を凝らす

野良猫が悠悠と行く坂道を吾の痛む足引きずり登る

何時しかに母となりたる野良猫か五匹の子猫を朝陽に銜ふ

子猫呼ぶ猫の鳴き声に気がつけば五匹の子猫三匹見えずして

枝渡るリスの素早さに見惚れつつ痛むわが足休ませてをり

目の前の枝を揺らして頬白が不意に飛び出す空青き丘

おしゃべりは女の天性と嘯きて話絶えざる丘の早起会

リタイヤかリストラされし人ならむ港見下し立ち居たりけり

今朝逢へる翁は初の散策か傍見をしつつ林道を行く

「児童囲棋」の看板著きビルの壁雨港なる名に適せる(すさ)

地震(なゐ)津波事故水害に日の本の友垣の安否気づかひて居り

日本より巨災見舞の返事着く友と同窓皆無事なりと

 

 

 

衣尽くし                     保富洋一

これやこのあづま白衣むべしこそ君が御衣と慈しみけれ

薄衣に透けて晒けて色白き絹と見紛ふ肌理よ麗し 

紅のさす頬もいつしか衣魚泳ぎ白粉で埋むる虫食いのあと

火の華の天に弾ける脇にして風の肌蹴る夏衣見ゆ

脱ぎ捨つる狩の衣の胸のうち明かし開かん唐衣の襟

吾が袖を濡らす難波の秋雨も洗ひ戻せぬ衣の白きよ

裁ち落とし破れ綻ぶあれやあの襤褸も羽衣恋ひすればこそ   

悲しみの小雪に縮まる皮衣吹きすさぶ風倦怠の夢

論客は歯に衣着せぬ物言ひで濡れ衣着する口舌の徒なれ

花咲かせころも見事なる海老天の身の痩せたるや羊頭狗肉

釈尊が端布繕ひ糞掃衣(ふんざうえ)主磨くにゃお誂へ向き

冥土逝く死装束は白くして愛しき衣は黄泉路への色

 

 

 

言葉いらざり                    毛燕珠

公園に日差しを受けてうたた寝す子らの歓声守唄にして

観音の山に霞の迫りゆき仙人の島虚空に浮かぶ

ひらひらと四月の雪の桐の花野をも山をも我をも潤す

懐かしの歌口ずさみせせらぎに乗りてもやもや晴れてすがしき

しとしとと春雨窓をうち濡らしわが迷ひをも洗ひて去りぬ

五月雪と思へば桐の花吹雪人も車も浮き立ちてあり

端午節町に粽の香り満ち忘れられぬは母の手作り

詩人らの端午の風に集ひきてひげひねりつつ得意の字句を

太平のこの世は遊び第一に明日は何処の空に遊ぶや

白カミラきのふは木末今朝電線好きな場所よりモーニングコール

川のごと流れ去りゆく歳月を惜しみて花を愛でてをりたし

甲板に望月仰ぐ君と我心通ひて言葉いらざり

 

 

 

風光りをり                     柚原正敬

鶯も聞かずて花のいつか散り緑豊けき木々を見上ぐる

かの禍をもたらし来る海なれど船工の祖父の愛でし海なり

大地震(おほなゐ)にこきし情けを給はるる台湾にぞ生く日本精神

登り来てこちごち見ゆる天草の島々わたる風光りをり

子イルカも群に泳げる天草の浜辺に大き蛸の干し並む

浴衣着て楽しみ待てどゆくりなき驟雨に泣き出す軒端のをさな

椰子の実の海に漂ひ三十年を経りて届くを靖國に知る

空と地の合はさる如く融けゆくを車窓ゆあかなく見続ける夕

朝焼けの空ゆ吹き来る涼風を浴みて歩める桜の並木

ペタコなる白き頭のほろろ鳴く鳥見まほしく聞き澄み(あり)

ホームにて(と)むる冷たき缶コーヒーうなじにそつとをみなは当てり

磯田なる白冷圳を築きたる技師を讃ふは台湾(びと)

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