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16集8

米は二度なる                  陳淑媛

果てしなき稲穂の靡く蓬莱の米は二度生り甘蔗は伸びる

マンゴーの青き実たわわに犇きて共に捥ぎし日の故郷遠し

相思樹の咲く大屯の霧はれて群れ飛ぶ蜂に花揺れやまず

楓並木色づかぬ我がフォルモサよ悲しかりけり街路歩めば

水張田の果てしなく続く蘭陽平野白鷺一羽の影おとし立つ

檳榔樹白き花房の匂ふかな微風に葉は天を掃きゐつ

巡り来る冬幾度か君逝きし日ポインセチアの緋と燃ゆる花

揺り椅子に憩へる一時来し方や行く末思ふ旅も終るを

玉蘭の木々の緑に白く咲く花に吹きくる夏の嵐よ

物の音しばし絶へたる束の間に月下美人の大輪ひらく

うつすらと雲積り来ぬ夕の空ゆきて帰らぬ知人友人

夫逝きて二十年故郷(さと)の学び舎へ「贈奨学金」つつがなく果たす

 

 

 

華やかなりき                    鄭 静

朝やけの銀に輝くすすきの穂赤とんぼのせゆるりとゆれゐる

緑なる橅の並木の朝やけに小鳥にぎはひ華やかなりき

そよ風にデッセッカの花つゆゆらし夕焼け小焼けの大空うつす

病室の窓辺にゐならぶ胡蝶蘭「もうひとがんばり」と媼はげます

山づみの文旦に笑めば杳き日が浮び来たりぬグリーン一色に

久久に集ひてたのしクラス会ななその心若くありしよ

山彦の遠く聞こゆる里の道柿の実そめて夕陽の沈む

秋風のひそかによぎる花畑に母とゐる様な里の夕ぐれ

ありなしの風にゆれゐる月下美人里の庭辺を白くともして

白かべに墨絵の如く写りゐる枝葉しづけく朱夏の午後染む

朝ぎりのたゆたひ揺るる紅のバラ母の姿の重なりて顕つ

桜葉の色そめて散る山の路を明るく照らす葉月の夕べ

 

 

 

自然に学ぶ       陳清波

木の葉影ぎらぎら眩し雨雫じつと見詰むるに胸の灯点る

コロコロと変る心の勝手きまま良かれ悪しかれ運命決められ

黄金の稲田の今は休耕地雑草茫々わが物顔に

次次に先越されゆく登り坂心焦れど年争へず

風なきに黄色い木の実ポトリ落つ誰も気づかぬニュートンだけが

梅雨になり庭のアヂサヰ丸笑顔通りゆく人もにつこり笑顔

ひゅうひゅうとビルの谷間で叫ぶ風台風兆しの知らせ宜しく

朝毎に登る石段円山路鳴く蝉耳にタオルを背なに

名も知らぬ野辺の草花艶やかに雨風めげず生き継がれゆく

野良犬に道を塞がれ立往生さつと蹲まればさつさと逃げ去り

見晴らせば一〇一ビルは雲の上に見えつ隠れつ姿変へつつ

春北へ秋は南へと色づきぬ桜と紅葉に人も連れられ

 

 

 

統一とふ前提                     鄭埌耀

携帯を続けてなくし三つ目は店員我を見上げ見おろす

老態を見するまじくと足早に歩みて荒げる息を整ふ

吾の知らぬ事を友等は知つてゐる死と言ふ事もその後の事も

生き残れる我が憎きか父のあと母も逝きしと目を逸らしけり

他人事と思ひし米寿とふ怪物が大き口あけ我に迫れり

病みたらば戦友とならむ老妻が脚かばひつつ厨に忙し

モダニズムの老妻ありて今日我の気がね要らざる老いのダンディ

老い知れるその日よりらし目が合へば会釈を交す誰彼となく

はて何を食らひて見むか携帯用の箸はフォークとスプーンを組める

貶さるるも侮らるるも馬英九祖国への忠誠凛とし動かず

銀弾と権謀術数に祖国愛統一一途に八方に構ふ

統一とふ前提は言はず両岸の講和は間無しと大言壮語

 

 

 

生きてゐる      鄭 昌

やはらかなる空にただよふ白き雲坂道のはて空想ゑがく

小さき駅畔と畔との中にありわが故郷を想ひてやまず

忘れゐし木犀の香のふいに匂ふいつもの角を曲りゆく時

枝高く風にゆれゐる柿二つ落つるなよと朝毎に言ふ

たんぽぽと枝垂れ桜のハガキ出し春の便りと春日をあびて

くづれゆく椿の花びら手に受けてきらきらをどる滴と共に

雨あがり春めく日ざし川土手の植えし桜の満開を見ぬ

誕生日来る度思ふ古里の花野を走りし二月の日日を

花冷えの夕に読みし「細雪」コーヒー飲みて心温まる

手も足も体も動く麻酔さめ涙つたひぬ吾生きてゐる

奥山の山野の草花多かりき名を知らぬ花との出合ひ楽しき

挿し木せし五弁の椿花をつけ歌を詠めよと吾にささやく

 

 

 

秋風            潘建祥

秋風と腕に刺青の亡父(ちち)思ひざわめく秋の地元河風

南端のバシーの潮騒軽やかに「台一線」首途の「小英」にはなむけを(蔡英文)

沈着且つ滔滔たるスピーチいぢらしきショートカットの秋風に靡く

空高く小英見おろす羊雲行く手妨ぐる路石を除く

幾度の颪に馴染み玉葱買ひて恒春調の野良歌を聞く

恒春の颪猛りて川沿ひの葱烟り撫づれば豊作培ふ

延々と山手へ続く轍みち農家の牛車閑かに移動

夕涼み一人に余る風入れて独居の翁自在に耽る

埋立ての坂無し村で朝散歩清き流れのせせらぎを聴く

秋空につばくろ飛行群れ成して南を目指し遠ざかりゆく

東西の潮風秋風入り混じりバシーの渚に千鳥戯る

菊の香や乾ける風吹く神無月劉富美姉の六周忌来る

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