米は二度なる 陳淑媛
果てしなき稲穂の靡く蓬莱の米は二度生り甘蔗は伸びる
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マンゴーの青き実たわわに犇きて共に捥ぎし日の故郷遠し
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相思樹の咲く大屯の霧はれて群れ飛ぶ蜂に花揺れやまず
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楓並木色づかぬ我がフォルモサよ悲しかりけり街路歩めば
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水張田の果てしなく続く蘭陽平野白鷺一羽の影おとし立つ
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檳榔樹白き花房の匂ふかな微風に葉は天を掃きゐつ
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巡り来る冬幾度か君逝きし日ポインセチアの緋と燃ゆる花
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揺り椅子に憩へる一時来し方や行く末思ふ旅も終るを
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玉蘭の木々の緑に白く咲く花に吹きくる夏の嵐よ
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物の音しばし絶へたる束の間に月下美人の大輪ひらく
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うつすらと雲積り来ぬ夕の空ゆきて帰らぬ知人友人
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夫逝きて二十年故郷(さと)の学び舎へ「贈奨学金」つつがなく果たす
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華やかなりき 鄭 静
朝やけの銀に輝くすすきの穂赤とんぼのせゆるりとゆれゐる
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緑なる橅の並木の朝やけに小鳥にぎはひ華やかなりき
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そよ風にデッセッカの花つゆゆらし夕焼け小焼けの大空うつす
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病室の窓辺にゐならぶ胡蝶蘭「もうひとがんばり」と媼はげます
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山づみの文旦に笑めば杳き日が浮び来たりぬグリーン一色に
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久久に集ひてたのしクラス会ななその心若くありしよ
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山彦の遠く聞こゆる里の道柿の実そめて夕陽の沈む
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秋風のひそかによぎる花畑に母とゐる様な里の夕ぐれ
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ありなしの風にゆれゐる月下美人里の庭辺を白くともして
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白かべに墨絵の如く写りゐる枝葉しづけく朱夏の午後染む
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朝ぎりのたゆたひ揺るる紅のバラ母の姿の重なりて顕つ
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桜葉の色そめて散る山の路を明るく照らす葉月の夕べ
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自然に学ぶ 陳清波
木の葉影ぎらぎら眩し雨雫じつと見詰むるに胸の灯点る
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コロコロと変る心の勝手きまま良かれ悪しかれ運命決められ
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黄金の稲田の今は休耕地雑草茫々わが物顔に
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次次に先越されゆく登り坂心焦れど年争へず
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風なきに黄色い木の実ポトリ落つ誰も気づかぬニュートンだけが
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梅雨になり庭のアヂサヰ丸笑顔通りゆく人もにつこり笑顔
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ひゅうひゅうとビルの谷間で叫ぶ風台風兆しの知らせ宜しく
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朝毎に登る石段円山路鳴く蝉耳にタオルを背なに
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名も知らぬ野辺の草花艶やかに雨風めげず生き継がれゆく
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野良犬に道を塞がれ立往生さつと蹲まればさつさと逃げ去り
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見晴らせば一〇一ビルは雲の上に見えつ隠れつ姿変へつつ
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春北へ秋は南へと色づきぬ桜と紅葉に人も連れられ
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統一とふ前提 鄭埌耀
携帯を続けてなくし三つ目は店員我を見上げ見おろす
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老態を見するまじくと足早に歩みて荒げる息を整ふ
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吾の知らぬ事を友等は知つてゐる死と言ふ事もその後の事も
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生き残れる我が憎きか父のあと母も逝きしと目を逸らしけり
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他人事と思ひし米寿とふ怪物が大き口あけ我に迫れり
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病みたらば戦友とならむ老妻が脚かばひつつ厨に忙し
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モダニズムの老妻ありて今日我の気がね要らざる老いのダンディ
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老い知れるその日よりらし目が合へば会釈を交す誰彼となく
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はて何を食らひて見むか携帯用の箸はフォークとスプーンを組める
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貶さるるも侮らるるも馬英九祖国への忠誠凛とし動かず
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銀弾と権謀術数に祖国愛統一一途に八方に構ふ
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統一とふ前提は言はず両岸の講和は間無しと大言壮語
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生きてゐる 鄭 昌
やはらかなる空にただよふ白き雲坂道のはて空想ゑがく
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小さき駅畔と畔との中にありわが故郷を想ひてやまず
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忘れゐし木犀の香のふいに匂ふいつもの角を曲りゆく時
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枝高く風にゆれゐる柿二つ落つるなよと朝毎に言ふ
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たんぽぽと枝垂れ桜のハガキ出し春の便りと春日をあびて
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くづれゆく椿の花びら手に受けてきらきらをどる滴と共に
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雨あがり春めく日ざし川土手の植えし桜の満開を見ぬ
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誕生日来る度思ふ古里の花野を走りし二月の日日を
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花冷えの夕に読みし「細雪」コーヒー飲みて心温まる
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手も足も体も動く麻酔さめ涙つたひぬ吾生きてゐる
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奥山の山野の草花多かりき名を知らぬ花との出合ひ楽しき
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挿し木せし五弁の椿花をつけ歌を詠めよと吾にささやく
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秋風 潘建祥
秋風と腕に刺青の亡父(ちち)思ひざわめく秋の地元河風
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南端のバシーの潮騒軽やかに「台一線」首途の「小英」にはなむけを(蔡英文)
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沈着且つ滔滔たるスピーチいぢらしきショートカットの秋風に靡く
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空高く小英見おろす羊雲行く手妨ぐる路石を除く
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幾度の颪に馴染み玉葱買ひて恒春調の野良歌を聞く
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恒春の颪猛りて川沿ひの葱烟り撫づれば豊作培ふ
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延々と山手へ続く轍みち農家の牛車閑かに移動
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夕涼み一人に余る風入れて独居の翁自在に耽る
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埋立ての坂無し村で朝散歩清き流れのせせらぎを聴く
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秋空につばくろ飛行群れ成して南を目指し遠ざかりゆく
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東西の潮風秋風入り混じりバシーの渚に千鳥戯る
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菊の香や乾ける風吹く神無月劉富美姉の六周忌来る
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