サヨンの鐘 曾昭烈
訪ねきし烏来の慰霊碑刻まるる忠勇無双の山の若きら
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山の乙女サヨンにまつはる物語李香蘭のロケ地日月潭にて
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歌会に行くバスの席に思ふこと今日の出詠玉の選かも
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うすれゆく記憶といふは止めどなく友の名いくびと思い出だせず
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診察の椅子に座れば水銀計すでに緊張係数決めてあり
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老いたれば消耗少なく長生きとわれの食慾に驚きながら
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ベル鳴りて押し戻さるる検身ゲートわが罪ならず帯の留め具なり
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横書きの名刺を使ふ人の増え縱文字見ればやけに親しく
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町中の排気さておき山荘に今宵も二人の灯を点しおり
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この齢は軍事教練になぐられをり一日をゲームに浸る孫らよ
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若き日に戦の日々のありしこと楽しきにあらざれど懐かしく
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終戦の日は美しく晴れてゐし敗者から逆転勝組の仲に
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今 日 曹永一
なぜ「今日」と云ふ日があるのか考へなされ「明日」は「昨日」となる不思議さよ
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中国は不沈空母に涎を流す海峡あらば日米恐れぬか
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聴力の残障証明出すと云ふああ我つんぼの廃人となりぬ
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妻も娘も白髪染めのよき相棒若く美しく女は同じなり
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郵便受けビラ氾濫すたまさかに友の便りを見つくる喜び
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水清し四万十川の川下り弁当は舟で紅葉は見頃
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日本行きこれがラストと思ひつつ年々訪日神のみ恵み
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この年で車と縁がなくなりぬ新車見る毎厭きず楽しむ
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イタリアもギリシャも嘗ての大国なれ破産寸前世界を震はす
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公園の木蔭は涼し車椅子列を並べて老人眠る
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軍艦岩登山にて立て札見ればあと半時間あきらめ帰る
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中国がソ連の如く幾つかに分裂する日無きにしも非ず
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オーストラリアを行く 蘇友銘
豪州の綿花協会訪れて綿花に就きて世界と比較
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文月明けブリスベーン河の橋の上氷を踏みて市街を望む
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牧場にバーベキューパーティ焼き肉の香りと煙は白雲招く
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ユーカリに見つけたコアラ眠ってる呼んでも呼んでもぐうぐう眠り
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メルボルン大きな花の時計見せプリンスブリッジフィリップ島へ
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ペンギンが沖より浜へ群れなしてうからら列なしよちよち宿へ
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キャンベラの空から見ゆる幾何図案船長クックの超高噴泉
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見上ぐれば南十字星の星五つ首都キャンベラの国会議院
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シドニーのオペラハウスは六つの帆港湾大橋夕日をあびて
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シドニーのキングクロースは夜の町ウィスキー・ア・ゴーゴー・ダンスを見する
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オットセイ鯨にイルカペンギンは太平洋の南のはてに
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水柱あまたの鯨群なして「潮吹き」競技ドレミファソラシ
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夫婦善哉 荘進源
若き日のロマンスを語る老妻が年甲斐もなく顔赤らむる
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老妻は肩を揉ませつつ日本語で女孫と会話訓練の一つ
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後妻かと取り沙汰されし老妻は身嗜みをば気遣ひて居り
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環境のアセスメントなる手法にて夫婦喧嘩を防ぎなされよ
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度忘れに思ひ出さんと寝ねられぬ床であれこれ当つるこの頃
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何時しかに長袖つけて腕の染み隠す年になり聊か寂し
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二百頁のわが自叙伝に収まれる奮闘半世紀あつけなかりけり
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チッチッパッパの雀の学校リス様の綱渡りとで山荘賑やか
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余りにも暑くて長き夏なれば秋の訪れただに待ち遠し
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その昔(かみ)の金色夜叉の物語今は日常茶飯事となりぬ
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原発は国土消失のリスクあり狭き国には慎重熟慮を
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売国奴罷り通る世の台湾に明日といふ日はありやなしやと
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米寿の宴 荘淑貞
海山の珍味溢るるバースディー四代の祝福米寿の宴
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米寿をば迎へたる我がバースディー乾杯の声我を祝して
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米寿の杯挙ぐるバースディー卒寿とふも間近よその上白寿も祈りて
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津波襲ひ人の命の儚さよ一瞬の間に露と消えゆく
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足裏の臓器のツボを教はりて石の舗道に痛み耐へつつ
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生かされて老いの暮らしを憂ひなく人生の旅路日日朗らかに
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学び舎に四大節歌ふ君が代は胸に響きて昔偲ばる
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早天に運動励む我が日課我の暮らしは規律正しく
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短歌(うた)詠めば萎める脳も甦り我根気よく学び続けり
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我が罪は十字架の血で清められ主に縋りて心安らか
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のど自慢声高らかに歌ふ子に我も大きな拍手を贈る
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戦乱の物資欠乏の我が暮らし芋粥続く三食思へば
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台湾生活と短歌と 舘量子
時折に嬉しさ極まる今わたし夢にまで見た台湾にいる
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悩み事あれこれ考え起き上がりふて寝はやめて短歌を作る
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真夜中に短歌が出来たときのため原稿用紙を枕のよこに
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台湾で短歌と出会えた幸せはいつもわたしの心の支え
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茨城の祖母編みくれしミッキーに留守を頼んで台北に行く
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歌会の皆さん歌う童謡の余韻に浸り高雄に帰る
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台湾の美味しい料理食べ過ぎてうつぶせに寝る習慣苦し
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寝ぼけ声電話出る前のど整え少し高めに「もしもし」と出る
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台湾語の鼻音の「ホッ」の心地よく時折自分で練習してみる
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ついに今日出てきてくれた夢の中爺ちゃん逝きし五ヶ月目の日に
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爺がまだいつも近くにいるようでゆれる衣服に「爺ちゃん」と問う
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爺ちゃんの愛した台湾守るから爺に最後に誓った約束
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