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16集6

サヨンの鐘  曾昭烈

訪ねきし烏来の慰霊碑刻まるる忠勇無双の山の若きら

山の乙女サヨンにまつはる物語李香蘭のロケ地日月潭にて

歌会に行くバスの席に思ふこと今日の出詠玉の選かも

うすれゆく記憶といふは止めどなく友の名いくびと思い出だせず

診察の椅子に座れば水銀計すでに緊張係数決めてあり

老いたれば消耗少なく長生きとわれの食慾に驚きながら

ベル鳴りて押し戻さるる検身ゲートわが罪ならず帯の留め具なり

横書きの名刺を使ふ人の増え縱文字見ればやけに親しく

町中の排気さておき山荘に今宵も二人の灯を点しおり

この齢は軍事教練になぐられをり一日をゲームに浸る孫らよ

若き日に戦の日々のありしこと楽しきにあらざれど懐かしく

終戦の日は美しく晴れてゐし敗者から逆転勝組の仲に

 

 

 

今 日         曹永一

なぜ「今日」と云ふ日があるのか考へなされ「明日」は「昨日」となる不思議さよ

中国は不沈空母に涎を流す海峡あらば日米恐れぬか

聴力の残障証明出すと云ふああ我つんぼの廃人となりぬ

妻も娘も白髪染めのよき相棒若く美しく女は同じなり

郵便受けビラ氾濫すたまさかに友の便りを見つくる喜び

水清し四万十川の川下り弁当は舟で紅葉は見頃

日本行きこれがラストと思ひつつ年々訪日神のみ恵み

この年で車と縁がなくなりぬ新車見る毎厭きず楽しむ

イタリアもギリシャも嘗ての大国なれ破産寸前世界を震はす

公園の木蔭は涼し車椅子列を並べて老人眠る

軍艦岩登山にて立て札見ればあと半時間あきらめ帰る

中国がソ連の如く幾つかに分裂する日無きにしも非ず

 

 

 

オーストラリアを行く               蘇友銘

豪州の綿花協会訪れて綿花に就きて世界と比較

文月明けブリスベーン河の橋の上氷を踏みて市街を望む

牧場にバーベキューパーティ焼き肉の香りと煙は白雲招く

ユーカリに見つけたコアラ眠ってる呼んでも呼んでもぐうぐう眠り

メルボルン大きな花の時計見せプリンスブリッジフィリップ島へ

ペンギンが沖より浜へ群れなしてうからら列なしよちよち宿へ

キャンベラの空から見ゆる幾何図案船長クックの超高噴泉

見上ぐれば南十字星の星五つ首都キャンベラの国会議院

シドニーのオペラハウスは六つの帆港湾大橋夕日をあびて

シドニーのキングクロースは夜の町ウィスキー・ア・ゴーゴー・ダンスを見する

オットセイ鯨にイルカペンギンは太平洋の南のはてに

水柱あまたの鯨群なして「潮吹き」競技ドレミファソラシ

 

 

 

夫婦善哉      荘進源

若き日のロマンスを語る老妻が年甲斐もなく顔赤らむる

老妻は肩を揉ませつつ日本語で女孫と会話訓練の一つ

後妻かと取り沙汰されし老妻は身嗜みをば気遣ひて居り

環境のアセスメントなる手法にて夫婦喧嘩を防ぎなされよ

度忘れに思ひ出さんと寝ねられぬ床であれこれ当つるこの頃

何時しかに長袖つけて腕の染み隠す年になり聊か寂し

二百頁のわが自叙伝に収まれる奮闘半世紀あつけなかりけり

チッチッパッパの雀の学校リス様の綱渡りとで山荘賑やか

余りにも暑くて長き夏なれば秋の訪れただに待ち遠し

その(かみ)の金色夜叉の物語今は日常茶飯事となりぬ

原発は国土消失のリスクあり狭き国には慎重熟慮を

売国奴罷り通る世の台湾に明日といふ日はありやなしやと

 

 

 

米寿の宴       荘淑貞

海山の珍味溢るるバースディー四代の祝福米寿の宴

米寿をば迎へたる我がバースディー乾杯の声我を祝して

米寿の杯挙ぐるバースディー卒寿とふも間近よその上白寿も祈りて

津波襲ひ人の命の儚さよ一瞬の間に露と消えゆく

足裏の臓器のツボを教はりて石の舗道に痛み耐へつつ

生かされて老いの暮らしを憂ひなく人生の旅路日日朗らかに

学び舎に四大節歌ふ君が代は胸に響きて昔偲ばる

早天に運動励む我が日課我の暮らしは規律正しく

短歌(うた)詠めば萎める脳も甦り我根気よく学び続けり

我が罪は十字架の血で清められ主に縋りて心安らか

のど自慢声高らかに歌ふ子に我も大きな拍手を贈る

戦乱の物資欠乏の我が暮らし芋粥続く三食思へば

 

 

 

台湾生活と短歌と                 舘量子

時折に嬉しさ極まる今わたし夢にまで見た台湾にいる

悩み事あれこれ考え起き上がりふて寝はやめて短歌を作る

真夜中に短歌が出来たときのため原稿用紙を枕のよこに

台湾で短歌と出会えた幸せはいつもわたしの心の支え

茨城の祖母編みくれしミッキーに留守を頼んで台北に行く

歌会の皆さん歌う童謡の余韻に浸り高雄に帰る

台湾の美味しい料理食べ過ぎてうつぶせに寝る習慣苦し

寝ぼけ声電話出る前のど整え少し高めに「もしもし」と出る

台湾語の鼻音の「ホッ」の心地よく時折自分で練習してみる

ついに今日出てきてくれた夢の中爺ちゃん逝きし五ヶ月目の日に

爺がまだいつも近くにいるようでゆれる衣服に「爺ちゃん」と問う

爺ちゃんの愛した台湾守るから爺に最後に誓った約束

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