揺らぎゐる心 高寶雪
何かしらせねばならぬと思ひゐる中に一日早くも暮れゆく
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何一つ不足なけれど老いの身にひと日ひと日と衰へを知る
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若き日も老いの日もまたいとほしく我とふ個性われのみにあり
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椅子机にたよりて歩く友にしてかかる役目を持てる家具かな
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それぞれの生き様印す顔と顔見つめ合ひたり五十年振り
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同年に生れし五人同年に喜寿を迎へてその後はばらばら
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揺らぎゐる心捨てがたき夕まぐれ池の睡蓮にとんぼ飛び交ふ
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鳥の声聞きつつ温泉に脚ひたる幾十年ぶり来たる烏来の滝
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少うしはおしゃれせよと半袖のハーフコートの届くバースデーに
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月一度の歌会に今日も見たるかな一つ心に学ぶ姿を
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笑むごとく時には話しかくるごと亡き夫の写真われを見下ろす
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遺影みて朝夕声かけ挨拶の習慣(ならひ)にわれの慰めらるる
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弟 黄 女辛 花
姉弟(きゃうだい)で学に励みて弟は電気に姉は高女に入学
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弟よ私達は頑張って脇目もふらず生きてきました
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父上は香港に居り香港の女と住んで一家をなして
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台湾でX線の訓練受け弟は遂に医者となりたり
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弟よ真面目なあなたは赤ちゃんの手と足の骨直そうとせし
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X線の身体に悪しと幾度も注意したれど「分ってゐる」と
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弟は自分の手にもX線受けて小児の骨直しゆく
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弟の背中に肉腫の発生しもう医者をやめてとやめさせにけり
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糖尿を併発したる弟は歩けなくなり消えゆくがごと
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「ありがたう姉さんありがたう」と涙ぐむ弟との終の別れなりける
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弟よ人に尽くして世を去りぬ天に昇りて星となりしか
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これよりは夜空を見上げ弟の星を探して日日を送らむ
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のど自慢in台湾 黄昆堅
七年に亙る交渉「のど自慢」の台湾演出遂に実現
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「のど自慢」の演出場に早やばやと駆けつけし我息の切れ切れ
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観覧者二千余人が「国父館」につめかけて観るのど自慢実況
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司会者のユーモア混じりに観席ゆ爆笑湧きて歓声上がる
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強烈なスポットライト目に眩しハイライトには胸高鳴りて
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ある時はシーンと静まりある時は拍手喝采場内は沸く
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観衆はリズムに合はせ拍子取り一体となりて熱血滾る
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けたたましく鳴る鐘の音に合格のシンガーが揚ぐる勝鬨の声
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場内に醸し出されし親和力誰彼問はず和気藹藹と
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終幕も間近なる頃チャンピオンの産出発表に息を凝らしむ
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日本語で唄ひし演歌高らかに日本語族の思ひ出誘ふ
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台湾の救援金にゲスト歌手嗚咽の声で感謝の言葉
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民主・国格・維新 黄培根
太平洋に面し台湾海峡に巍巍と立つこの島歴史は四百年
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幾度の殖民の民祖国なき亜細亜の孤児と身の置き所なし
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国名は芸妓の仇名の如くなり悲劇の民よ明日の日も知らず
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経済の巨龍と謳はれ輝かしき歴史も今や風と共に去りぬ
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名産のバナナ一斤は餃子一個にて果物王国面目地に堕つ
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職のなく町角に迷ふ浮浪者の虚ろな目つき明日の日もなし
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台湾と呼べば民粋主義と非難され中華民国を押し売りされり
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国際に認められずに万博で汁そば売り場唯一の見所
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対岸の統一求むる企図日増し馬政府の媚共この島危ふし
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九二共識一中二中は難しくわれらにあるはイモ共識のみ
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馬落馬新気象に新秩序自由民主の新国造りを
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此の度の選挙大接戦待望の台湾維新この目で見るを
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悲願成就を 黄教子
ふるさとを遥かに思ふなつかしき母校に集へる友垣偲びて
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半世紀近くを隔て思ひ出づる恩師友垣若きままなり
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鬼籍に入る友の名もあり再会を願ふも生きてをればこそなる
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相集ひほがらに語る日もあらむ恩師友垣幸くありませ
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草の根の民主主義をば望みゐる庶民の願ひ叶へたまへや
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貧しくも文化ある国は強しとふ許氏の御言葉反芻する日日
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台湾に草の根運動湧き起こる兆し頼もし小豚の貯金箱
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気を鎮めお聞きなさいと蔡代表の声に瞬時を空白となる
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満面の笑顔に名器コンサート共に聴きしは一昨日(をととひ)のこと
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台湾の西郷さんと日頃より敬ひ慕へる黄先生はも(黄昭堂先生)
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一生を清く捧げて台湾の独立の悲願に生きたまひし君
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番組に残れる御声くりかへし聴きつつ祈る悲願成就を
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ウライ行 黄伯超
(一九四七年・医学生時期の作)
歌にありしウライの山の早乙女のかくばかりとは思はざりけり
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五月雨の晴れたる夜や蕃屋にひびく歌声えも言はれ得ず
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思はざる山の友等のもてなしに友は浦島思ひ出しけり
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我もまた乞はれて夜の蕃屋にローゼマリをば歌ひにけるよ
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子供等のミルツ・トモール(脾臓)眺めては致し方なく蚊をば追ひけり
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我が友に心寄せたるらし山の乙女(こ)のしきりに招けり山の祭りに
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広言を吐きし白川上等兵寝小便たれて逃げてがつかり(日本兵だった原住民)
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雨にぬれパンツしぼりし甲斐ありてウライ小町の歌聞きえたり
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吾妹よと歌ふ友の歌よめば年の端ゆかぬ我のうらめし
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数数の友の歌をし読みぬれば吾妹吾妹とうたひてありき
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かくばかり魅力のありて美しと思はざりけり土星のリング
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吾妹子と睦言語りつ夏の夜に天つ星星見れば楽しき
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