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16集3

揺らぎゐる心      高寶雪

何かしらせねばならぬと思ひゐる中に一日早くも暮れゆく

何一つ不足なけれど老いの身にひと日ひと日と衰へを知る

若き日も老いの日もまたいとほしく我とふ個性われのみにあり

椅子机にたよりて歩く友にしてかかる役目を持てる家具かな

それぞれの生き様印す顔と顔見つめ合ひたり五十年振り

同年に生れし五人同年に喜寿を迎へてその後はばらばら

揺らぎゐる心捨てがたき夕まぐれ池の睡蓮にとんぼ飛び交ふ

鳥の声聞きつつ温泉に脚ひたる幾十年ぶり来たる烏来の滝

少うしはおしゃれせよと半袖のハーフコートの届くバースデーに

月一度の歌会に今日も見たるかな一つ心に学ぶ姿を

笑むごとく時には話しかくるごと亡き夫の写真われを見下ろす

遺影みて朝夕声かけ挨拶の習慣(ならひ)にわれの慰めらるる

 

 

 

弟         黄 女辛 花

姉弟(きゃうだい)で学に励みて弟は電気に姉は高女に入学

弟よ私達は頑張って脇目もふらず生きてきました

父上は香港に居り香港の女と住んで一家をなして

台湾でX線の訓練受け弟は遂に医者となりたり

弟よ真面目なあなたは赤ちゃんの手と足の骨直そうとせし

X線の身体に悪しと幾度も注意したれど「分ってゐる」と

弟は自分の手にもX線受けて小児の骨直しゆく

弟の背中に肉腫の発生しもう医者をやめてとやめさせにけり

糖尿を併発したる弟は歩けなくなり消えゆくがごと

「ありがたう姉さんありがたう」と涙ぐむ弟との終の別れなりける

弟よ人に尽くして世を去りぬ天に昇りて星となりしか

これよりは夜空を見上げ弟の星を探して日日を送らむ

 

 

 

のど自慢in台湾                  黄昆堅

七年に亙る交渉「のど自慢」の台湾演出遂に実現

「のど自慢」の演出場に早やばやと駆けつけし我息の切れ切れ

観覧者二千余人が「国父館」につめかけて観るのど自慢実況

司会者のユーモア混じりに観席ゆ爆笑湧きて歓声上がる

強烈なスポットライト目に眩しハイライトには胸高鳴りて

ある時はシーンと静まりある時は拍手喝采場内は沸く

観衆はリズムに合はせ拍子取り一体となりて熱血滾る

けたたましく鳴る鐘の音に合格のシンガーが揚ぐる勝鬨の声

場内に醸し出されし親和力誰彼問はず和気藹藹と

終幕も間近なる頃チャンピオンの産出発表に息を凝らしむ

日本語で唄ひし演歌高らかに日本語族の思ひ出誘ふ

台湾の救援金にゲスト歌手嗚咽の声で感謝の言葉

 

 

 

民主・国格・維新                 黄培根

太平洋に面し台湾海峡に巍巍と立つこの島歴史は四百年

幾度の殖民の民祖国なき亜細亜の孤児と身の置き所なし

国名は芸妓の仇名の如くなり悲劇の民よ明日の日も知らず

経済の巨龍と謳はれ輝かしき歴史も今や風と共に去りぬ

名産のバナナ一斤は餃子一個にて果物王国面目地に堕つ

職のなく町角に迷ふ浮浪者の虚ろな目つき明日の日もなし

台湾と呼べば民粋主義と非難され中華民国を押し売りされり

国際に認められずに万博で汁そば売り場唯一の見所

対岸の統一求むる企図日増し馬政府の媚共この島危ふし

九二共識一中二中は難しくわれらにあるはイモ共識のみ

馬落馬新気象に新秩序自由民主の新国造りを

此の度の選挙大接戦待望の台湾維新この目で見るを

 

 

 


悲願成就を                    黄教子

ふるさとを遥かに思ふなつかしき母校に集へる友垣偲びて

半世紀近くを隔て思ひ出づる恩師友垣若きままなり

鬼籍に入る友の名もあり再会を願ふも生きてをればこそなる

相集ひほがらに語る日もあらむ恩師友垣幸くありませ

草の根の民主主義をば望みゐる庶民の願ひ叶へたまへや

貧しくも文化ある国は強しとふ許氏の御言葉反芻する日日

台湾に草の根運動湧き起こる兆し頼もし小豚の貯金箱

気を鎮めお聞きなさいと蔡代表の声に瞬時を空白となる

満面の笑顔に名器コンサート共に聴きしは一昨日(をととひ)のこと

台湾の西郷さんと日頃より敬ひ慕へる黄先生はも(黄昭堂先生)

一生を清く捧げて台湾の独立の悲願に生きたまひし君

番組に残れる御声くりかへし聴きつつ祈る悲願成就を

 

 

 

ウライ行       黄伯超

                   (一九四七年・医学生時期の作)

歌にありしウライの山の早乙女のかくばかりとは思はざりけり

五月雨の晴れたる夜や蕃屋にひびく歌声えも言はれ得ず

思はざる山の友等のもてなしに友は浦島思ひ出しけり

我もまた乞はれて夜の蕃屋にローゼマリをば歌ひにけるよ

子供等のミルツ・トモール(脾臓)眺めては致し方なく蚊をば追ひけり

我が友に心寄せたるらし山の乙女(こ)のしきりに招けり山の祭りに

広言を吐きし白川上等兵寝小便たれて逃げてがつかり(日本兵だった原住民)

雨にぬれパンツしぼりし甲斐ありてウライ小町の歌聞きえたり

吾妹よと歌ふ友の歌よめば年の端ゆかぬ我のうらめし

数数の友の歌をし読みぬれば吾妹吾妹とうたひてありき

かくばかり魅力のありて美しと思はざりけり土星のリング

吾妹子と睦言語りつ夏の夜に天つ星星見れば楽しき

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