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16集12

老いの感嘆                    林燧生

初孫がデジカメ弄り捉へたる皺くちや顔に我老いを知る

老い知りて切なき夜半に目覺めては思ひならざるあの手この手か

老いの目に緑の芽吹く鉢植えの親しき楓の絆二十年

若者の拘り案じ別居するも老後の生活(くらし)寂しくもあり

耄れの唯一の楽しみ日曜日孫の姿に安らぐ心

お互ひに相槌交はす友減りて寂莫迫る老いらくの日日

友来たり来年又と念押せど明日の命を誰が知るぞや

三日月の光かすかに傾けば介護の疲労しみじみ身にしむ

沈みゆく秋の夕陽に込み上ぐる老いの悩みの遣る瀨なき思ひ

相継ぎて去り逝く友に渦の巻く心の痛み待てよあの世で

老い心夜毎の夢に顕われし亡き慈母の顔枕を濡らす

来る日には「葬儀無用」と遺し書き只管願う父母(ちちはは)の辺に

 

 

 

神の賜物                      林肇基

ヴァイオリンと紅包(アンパオ)を手に此の次は広場でと言ふあの孫いと

他国(よそ)からも買へぬ電力如何せん水風波に炭ソーラー電池

極く安のエネとは聞けど事故あらば収束難とはつゆ知らざりき

やみくもに脱原発は「因噎廃食」電力不足復興はいづこ

ゼネコンの手抜き工事贈収賄それでも伸ぶる不可思議な国

ぼろぼろの公衆便所怒り圧し憮然と使ふ不可思議なる民

厳として聖き一票を「民進」に投じて己が初志を貫徹

子や孫の末は民主か独裁かひそかに憂ふ後期高齢者

悪銭に与せし輩汝れ将に歴史てふ名の法廷に立たむ

高級てふ優越感持つ白痴(たはけ)者ナベカマ隊の末裔なるに

この一戦天下分け目のいくさなり「みどり」に投ぜよ子や孫のため

二二八にて拾った命の三倍も神の賜物八十五歳

 

 

 

孫らの笑顔       林蘇棉

山の辺の紅の絨毯曼珠沙華キャノンに残す孫らの笑顔

太平山の尾根裾匂ふジキタリス赤紫と白の花海

残暑なるバナナ王国旗尾夜市高きカキ氷の溶け皿に蝿

潮引きの穴に撒く灰蛸干狩り磯に放浪ふを追ひゆく親子

パリーにて大衆タクシー手をあぐれば大小問はず値段は同じ

何時しかに言葉少なき老夫婦子らの笑顔に席が綻ぶ

落葉路を車椅子押すウォーキング御来光仰ぐ京華城巡り

うかららと推す車椅子芭蕉椰子の葉陰に仰ぐ望月見かな

大地震と津波の(をか)荒れど鯖の初荷の糶声(せりごえ)高し

旧海軍の武官府に聳ゆるKMTのビル何時しかに長栄ビルとなり

子だくさんの石垣に植ゑたる空心菜安サラリーの明日へと芽吹く

幾世代の荒波と競ふ台湾は明日の幸せ乞ひ願ふ国

 

 

 

はや老いたれば                  林碧宮

花びらを両手に受けてしばらくを香り楽しむひとり居の日に

歳取れるはらからの声と其の姿父よ母よと紛ふこの頃

晩年は孤独に堪へて自分なりの世界を楽しむ早や老いたれば

老いたれば見栄外聞もみなすてて自己流にこれぞ老いの才覚

晩秋の風吹く庭にて草を取るままごと遊びの一人の世界

晩年の安らぎの宿か朝毎に父母の遺影眺めて落ちつく

捨て難き日本の学友の古手紙に今何処にかと青空に聞く

戴きし大字典厚く手に抱きて友が情の程を偲べり

些かのワインに酔ひて浜千鳥唄ひし友の横顔さみし

たくましく自立せるらし電話にて父母を労る孫の優しさ

己しか知る事のなき己の裡三十一文字にも表しがたき

さからはず運命のままに生きて来し仰ぐ満月に母の慈顔の

 

 

 

小学生日記                      林禎慧

ランドセルに制服制帽皮靴と人形の如く記念写真に

難関の入試にパスせし「小学校」七つの我は胸を張りたる

ゴムの木の大樹茂れる校門に夢ふくらませしは昭和十年

心なきクラスメートにいじめられ泣く泣く帰りし辛き日のあり

良師あり「差別」をいみて「平等」を幼なの我に諭しくれたる

友ありて図書館通ひに熱中し「吉屋信子」の大ファンとなる

日支事変に騒然の級友ら侮蔑の目をば我にむけたり

一匹の迷へる小羊の幼なわれ「日本」と「台湾」を深く思考す

「ゼイタクは敵」なりのスローガンありて週一回の日の丸弁当

戦時にも「芸術」は不可欠と我が良師コーラス団組み我はマドンナに

授業中クラーク博士の「少年よ大志を抱け」を萬遍と聞く

「克己心」「不撓不屈」を培ひし母なる学舎(まなびや)「新富小学校」

 

 

 

山里ぐらし                   林百合

明け初むる空のくれなゐ美しく山はめざめて姿あらはす

山水(やまみず)は庭を流れて滝となりせせらぎとなりて吾が家潤す

庭園に旧交あたたむ同期会吾らを祝ふ蝶舞ひやまず

庭園を覆ふ万朶のつつじ花誰が名づけしや「花海」と呼ばる

(しろはす)の一輪咲きて星のごと浮葉に立てり小池華やぐ

山茶花の蕾は日に日に数増して冬日に照りて開花の日待つ

ほのかなる香りを乗せて吹く風は楊桃の花咲きたるを告ぐ

出で見れば匂ひ漂ふ檳榔の小花が散る散る風の間に間に

コトコトとガラス戸叩きし小鳥らは何処へ行きしや目覚めて淋しむ

捥ぎたての野菜を竹籠に入れしまま小川の流れに浮かせて浄む

目覚むれば背筋のばして庭園をもとほる吾のささやかなる贅

友去れば秋の夕べの早暮れて椰子の木づたひに月のぼりくる

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