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15集7

小さき幸せ                    陳秀鳳

愛孫の好みに合せいそいそと厨房に立つ小さき幸せ

人生の苦楽を共に歩み来し長くて短き結婚五十年

目に浮ぶおさげ姿の恩師はや傘寿なれども才媛変らず

季来れば競ひて咲けるアマリリスわがもの顔に庭をば占めて

飼ひ主と見まちがへしか手の(ひら)にやさしくとまる迷子の小鳥

かぐはしき銀木犀にふるるたび植ゑくれし母の面影偲ぶ

旅先にて見つけし足湯吐息はき桜島(しま)を愛でゐる道草楽し

「慌てるな、足元見よ」と夫の声支へ気づかふ心うれしき

枯れ死にと思ひし去年の夏菊の何時しか新芽つづきて開花

日当りや水など世話も変らぬにつつじが一本寂しく枯れぬ

街頭でガイドの話に耳立つればバッグを狙ふ女スリの手

剪定を忘れ伸びゆくハイビスカス路地裏最高つひに天下取り

 

 

 

只一すぢに                  陳淑媛

震災に日の本の民雄々しかり秩序守りて世の鑑かな

海水に浸りし桜咲き初めて被災の民を労るごとく

街並にそひ咲き盛る花ツツジ蓬莱島の春たけなはに

ハイビスカス峻烈に赤き台湾は亜細亜の孤児の我らが故郷

万緑の島に吹き来る風涼し里の梢にペタコの囀り

我が家とは何なるらん子らそれぞれに巣立ちゆき家のみ残されて

栴檀の花咲き香る夕映に霞みて靡く杣の我が里

帰り来て散りしく枯葉集め焚く春風そよぎ煙たなびく

来世とふもの若しあらばまた親子でありたし共に縁信じつ

大陸の観光団は嬉々として二二八記念碑を参観す

ベランダのブーゲンビリア一面に紅散らし咲く真冬の空に

限りあるこの命なりみ仏に仕へ奉らむ只一すぢに

 

 

 

十一人目の末孫                   陳瑞卿

子生まぬと言ひし末夫婦犬を飼ひ婚後九年にをの子を生めり

類を見ぬ寒波連発に高熱出し半年間に三度も入院

子育ての「眠りなよい子一晩に一寸伸びるよ」今孫に聞かす

春訪れ元気旺盛恙なく育ちようやく愁眉の開く

いつしかに客間は遊び場山ほどの玩具と棚には絵本がぎつしり

本めくれば仔細ありげになんなんと声出し童話の世界に没入

孫と犬は仲良しこよし目放てばチャンスとばかり孫の口を舐め

ハイハイで一等もらひ賞品のシャボン玉水は澱粉と言ふ

マリ投げで犬が見事にくはふればパチパチと拍手を送る

早きもの曾孫より二つ半下の末孫は五月の末に誕生迎ふ

願はくば孫の成長を末永く見守りたきは叶はぬ夢か

もくもくと詩情湧き出でペン先のすらすら走る春さむの夜

 

 

 

心の憩ひ場                    陳清波

年老いて関白亭主シャボン玉かかあの天下に子らの助太刀

アメリカに怪石一つ落とされて無数の死傷者に後遺症いつまでも

幼な時の澄んだ青空なぜ恋し今は灰色見る影もなし

傘さして登る山道ポトポトと葉末の雫太鼓の音色

地震津波家ごと失くし生命拾ひ家族の行方今はいずこに

母逝きて甘ゆる人なき老いわれに孫ら競ひて我に甘え来る

暮なづむ夕空に見る流れ星夢多き過去胸をくもらす

傘杖を頼りに歩む老いの友山路も自由なる我は幸せ

心して南無阿弥陀仏称ふれば六道離れ極楽浄土へ

白き息吐きつつ登る圓山路体ぽかぽか頬っぺひりひり

登りては下る山道峠づたひ草原左に右は海原

吹く風にさらさら奏づる竹林風柔らかき調べ何を訴ふるや

 

 

 

春一番                        鄭 静

ふるさとの町に抱かれあの顔にこの声に笑めば心温もる

公園の風と光にたはむれば空は夕焼け茜に映ゆる

散歩道風にさそはれ野を行けばゆくりなく咲ける野の花一輪

朝ぎりにぬれて囀る小鳥達春一番の真っ最中に飛ぶ

パソコンに映る美しき我が祖国つなみが(つれ)なく消し去りゆけり

大津波に大和魂負けるまじと勇気を奮ひて起ち上がりませ

一枚の賀状やうやく受け取りて心明るく新年迎ふ

ひめやかに桜の咲ける靖国にみ霊の声をと耳澄ましたり

五月晴れ同窓会に友集ひ真鯉緋鯉の泳ぐを仰ぐ

たまさかに牧師邸宅おとづれて学ばむとする聖書の奥義

春されば竹の子林あまく香り土がふつくりもり上がり来る

竹の子を堀り上げ一口噛みたれば香りとともに喉元甘し

 

 

 

時雨 鄭 昌

風薫る五月の山に来てみれば桐の花こぼれ雪かとぞ思ふ

おだやかに晴れ渡る日日山里にかすかにただよふ夕げのけむり

北風のカタコトとなる窓の辺にふる里の冬をなつかしと思ふ

葉のかげに残る果実を守るがに晩秋の日は暖かくそそぐ

穂すすきの沢田の原の頂きに今宵の時雨ななめに降りて

ガジュマルのトンネルの道落ちてゆく黄ばみし枯葉寒き冬のあさ

友賜びしはち植ゑの四つ葉のクローバ紫の花今咲きにけり

冬の暮れ水車の音を聞きながら旧正も間近と若き日の吾

山里に白き煙の立つ頃はいかにおはすかわが父母は

一夜にて落葉づくしの道に立つかすかに見ゆる朝日の輝き

見上ぐれば雲は流れて梢には目にしむ如き若葉の芽生え

ラベンダーぐんと伸びをり紫の小さき花は風とたはむる

 

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