バックナンバー‎ > ‎15集1‎ > ‎

15集5

花売り                        周福南

街角の花を売る娘のその笑みに香り弥増す春の明け

南風吹けば穂を出す麦畑蛙の声も聞く花曇り

舟ばたを掴む夫婦の手の力鳴門渦潮白波高し

笛太鼓三味の音響く阿波踊り友がき結ぶ熱きひと時

せせらぎに魚群の遊ぶ緑陰を行けば心も澄みわたるかな

太閤の巨城輝く堀端の桜満ち満つ民のオアシス

那智の峰とどろく滝の白しぶき浴びて千歳の杉緑深し

平安のせせらぎ戻る堀川に桜舞ひ散り木の葉と競ふ

しっとりと大地潤す穀雨の夜稲妻走り夏はすぐそこ

春雨に新緑萌えて清清し今年も豊年豊作祈る

残雪にホルン響きて山開き流れきらめく河童橋渡る

驚きの雪壁の道続きたり真白に輝く雷鳥の里

 

 

 

人生  徐奇芬

子らが為精費して老い迎ふこれが人生昔も今も

生き別れ死に別れある世の中に息づく我も何時か去りゆく

闇を打つ雨音に耳傾けて思ひ走らすあの子この娘に

目を閉じて逝きし人々顕たしめば町灯の如く胸にまたたく

夕映えに浮き立つビルの立ち並ぶ街の角っこに小さく我が居る

真昼中地下鉄工事の人夫らの汗にまみれる顔輝やける

目を閉じて数珠数へ居る媼ありバスの奥なる席に坐りて

雑踏の中を逃れて帰り来し斗室に点る灯し火温し

雨霽れて急ぐ行手は何処かや飛ぶが如くに散りゆく白雲

越えて来し苦難の数に浮かび立つ静もる今夜しんしんとして

遂にして会へざるままを逝き給ふ恩師顕ち来る雨を聞きつつ

成り行きに任せて生くるとふ事を肯ひて来しわが八十余年

 

 

 

市民の翡翠水庫                 曾昭烈

満満と真水を湛へしづもれる市民の水庫を翡翠と呼べり

新年の葉書を送る片隅に色えんぴつで兎を跳ばす

又いらっしゃいと笑顔の別れ帰国後もふと思ひ出すひとりの住ひ

持ち物を残して行くのを死去といふ余計な遺産は災ひのもと

晩節に入りても刺激求めむと一人ネオンの町に出で来つ

水ぬるみ赤く淀める新店渓鮎釣る昔に思ひをはせて

食べ捨てし枇杷の種芽を伸ばしたり借家の庭と知るや知らずや

有機作をうたふ朝市ござ敷に完熟のトマト吾を呼び止めり

後しばしの短歌楽しまむと生きてゐるわが人生の中の一日

ケイタイを切りたる後の微笑みを向ひ席に見る今日は母の日

新婚の昔の二人に戻り来てあまたの茶碗を背に夕餉取る

亡き父の残せる杖の握り柄は左利きのわれ不都合のなく

 

 

 

パイナップルの丘                 蘇楠

照子女史「いつかパインの歌をも」とのたまひたれば脳しぼり見る

木に非ずパインは草本実は上ぞ一ヘクタール約四万株

台湾のパインは一万ヘクタール世界三位の生産なりき

水はけの良き酸性の土好むさればパインは丘陵のもの

命を受け古きパインの農場に水電引きてラボラトリー建つ

我が場は古坑の村より五十分徒歩にて登る山の辺の丘

緑濃きパインの丘ゆ見おろせば朧に青し夢の国原

母連れて赴任せし時我二十五(ふそい)三十三まで山と睦びき

赴任まへ会ひし妹子が明くる年山を厭はず我に嫁ぎき

週末は人無きパインの畑めぐり若き二人の飽かぬさすらひ

星の夜の畑路にすだく虫の音を共に賞でにし数知れぬ宵

夢と去りしパインの園は我が試練新妻が丘子等の天国

 

 

 

ヨーロッパの旅    蘇友銘

ローマにて来し道知らず一跨ぎバチカン市内の聖堂仰ぐ

ゴンドラにてベニスを巡り民謡を聞きつつ揺られゆられてゆけり

ナポリ湾サンタルチアの海辺にて「帰れソレントへ」を二人で歌へり

ライン河の流れに沿ひてローレライゲーテの悩みワグナーを思ふ

アルプスのロープウェーより見下ろせば放牧の牛の鈴の音がせり

テトリスの氷の山の頂上にてまづき中華の弁当を食む

ウィーンの森から遠くを見渡せば市街宮殿ドナウ河見ゆる

きらびやかに凛々しく雄々し衛兵のバッキンガムの交替式は

ロイヤルの女性警官馬上よりバッキンガムの観衆見下す

パリの夜エッフェル塔に凱旋門シャンゼリゼ通りを妻と(みは)れり

セーヌ川パリの夜景は小船にてバンドとピエロに船内賑はふ

オランダの風車の小屋のオルゴール今日も又孫の鳴らすが聞こゆ

 

 

 

日本の空港                    曹永一

通関に指紋と写真撮るならば窓口増やせ日本の空港

老人の坐るを待ちてゆっくりとバスは発車す良きドライバー

二十年過ぎて来たりし坪林は山水変らず人のみ老いたり

鬼集め三途の河に相撲取ると歌ひし友よ逝きて三年

生ありて死あるは自然の道理なりすべて簡素にひっそり逝かむ

観光客日本を避けて寄り付かずかかる時こそ我ら訪れむ

北海道二万を出せば五日旅原発事故のお蔭と知るべし

台湾に福島の如き事故あらば何処に逃れん神憐れみ給へ

百年祭り台湾と何のかかはりなし中華民国消えて久しく

振り返る勿れと心に誓へどもついつい過去にさまよふ八十路

国ありて無きが如きの台湾よ小さき国国羨ましかり

亡き母の夢見し夜のわびしさよ不幸許せと両手を合わす

 

Comments