吾が生涯 蔡永興
戦争のさなかの我は小学生物資なくとも人情あつし
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占領軍の支那兵実は無法者中学生のそのころのこと
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大学に弱き英語を専攻すまるでボタンを掛け違ふごと
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「竹腰」に入社叶へる幸運に夢中に学び働きし日々
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成績の群抜き伸ぶる部下を見て辞めゆく時を自づと知りぬ
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半世紀過ぎて社会に尽くし得るこれも仏の御加護にありや
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末孫は早大生に初孫は博士課程と幸満ち溢る
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グレてゐし子が知らぬ間に名門のトップとなれり神の御加護か
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祖父母らが親の手を焼く孫連れて浅草原宿買ひ物廻り
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ひと本の桜我が家に春呼べど厳しき夏もまた近づけり
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一本の桜といへど春の夢希望もたらし赤く燃え立つ
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木々の芽のふくらみたれど肌寒き長雨またも冬呼び戻す
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鳳凰花を謳ふ 蔡紅玉
紅はたぎる血潮のしるしにてあやしく心をかきみだす色
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鳳凰は華麗な鳥と伝えらるその名を借りしや鳳凰花と言ふ
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初恋は初夏の鳳凰花に煽られて心もそぞろくれなゐに染む
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心待つ花の季節に必ずやあとを跟け来る篠をつく雨
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どしゃぶりにくれなゐの花散り敷きて破れし恋のかけらの如し
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幼き日無邪気に拾ひし紅色の地に落ちし花弁はほほづき代り
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滑り台の水溜りに落ちバッシャンと泥水浴びしも楽しかりけり
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どっしりと幹の太きに鬱蒼と鳳凰木は風雨にめげず
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逞しき木に咲く華麗な鳳凰花桜と異なる風格見する
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「来年も又ね鳳凰花」とひとりごち散りし花花に別れを告ぐる
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雨を待つダムと木々にも憂ひあらむ水の枯渇に起こる恐惶
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赤く染むる四月の楓に驚けり冬は根元に氷を溜めしと
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大和の誇り 蔡焜燦
大地震(なゐ)と津波の画面を眺めつつ電話すれども消息のなし
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意志を持つ生き物の如大津波如何で罪なき人を襲ふや
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み仏よみちのく襲ふ天災の市井の人々救ひたまへや
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日の本の若き防人健気にも原発修復に命厭はず
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はらからを救ふ防人逞しくそれを励ます大和なでしこ
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オペレーショントモダチと名付け戦へるアメリカ兵の雄々しき姿
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定年の老人志願し原発の救助に赴くかくも気高き
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地震津波救済に励む自衛隊君らの誠は大和の誇り
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自衛隊かく闘へりと胸を張る君らの先輩誇らかにして
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災民に言葉を賜ふ大帝(おほみかど)日の本の民幸せなるかな
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ご巡幸災民の手をとり慰むる国父国母のやさしき御顔
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日の本の被災の友どちこの我も君らと共に春や忘れじ
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東日本大震災 蔡佩香
震災と津波核災に福島と岩手宮城は煉獄と化す
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災難に面すれど尚も自律する大和の民の誇りの高さ
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被災地より安全地区へ撤退する車続くもラッパの音は無く
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物資欠く避難所にても謙譲しあふ日本の民の崇高さかな
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被災地の留学生の台北での涙の募金に皆涙する
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他国より緊急支援義援金人力物資が続々と着く
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命懸け福島原発救助する英雄達は絶賛浴ぶる
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国の為英雄達は現代の決死隊として献身するなり
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被災地の仮設住宅等の施設短期間内に完成願ふ
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被災地の一日も早き復興の出来るやうにと神に祈らむ
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核災が世界の為に早急に治まるやうにと切に祈るなり
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両陛下避難所多所を廻られて被災地の民を御慰問なさる
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津波 佐藤厚子
東洋に誇る漁港を一瞬に呑みたる津波誰をか恨む
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大漁旗かかげて入る漁船なく瓦礫に止まり鳴く浜千鳥
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被災者の語る言葉がなつかしきお国訛であるを悲しむ
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黙祷して遺体を処理する隊員が吾娘なるならばと痛み嘆かふ
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復興を果すと断言する社長社員と共に涙の誓ひ
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惨状が映るニュースの一瞬に三陸鴎の一羽が横切る
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九と云ふ数字を忌みて米寿より卒寿となれる齢賜る
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高令と云へど一人で生きてゐる自身と誇りは吾だけのもの
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木割り箸舐めつつ思ふ姥捨ての山には山の生き方もあり
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バイクにて狭まる側に身を寄せて道をゆづられ終日温し
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社会科と名乗る人より電話あり細ごま問はれほどほど答へり
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四季通し黄菊を咲かす人が居て散歩のコース自づと決る
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花の博覧会 謝白雲
台湾にて始めてのイベント博覧会世界に向けて客をば誘ふ
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大がかりな準備のもとに二千十年十一月に開幕となる
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花博の花火が夜空を彩りて大稲埕埠頭は人で賑はふ
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空高く爽やかな秋会場へ家族と共に出向き行きたり
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見物客何より人気の争艶館に長蛇の列をなして待ち居る
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大輪の白胡蝶蘭高貴なる香り放ちて人を酔はしむ
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如何にしてこの景観を生みしかと花に近づきまじまじと見る
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一茎に蘭の花二十も鈴なりに見事に咲きて目を見張るなり
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小学生カメラを持ちてパチパチと自由自在に撮影しをり
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大陸の旅行客らが目立ち居て一人一台カメラを肩に
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会場は家の附近にて便利よく幾度となく出向きて行きぬ
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半年の花博終はりに近づきて花の宴は今盛りなり
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