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15集11

八重桜かな                   林蘇綿

李総統を産み育てたる三芝郷あの山この道八重桜かな

人間とは妥協しない地震津波福島原発の事故ここに見る

馬に乗り羊の群を追ふてゆくハザックの女菜の花さして

「光輝ある軍旗の下に死ね」と言ふ師団長の言父驚かす

メチブロンの燻蒸に死ぬゴキブリは壁に居残り生くるが如く

短歌会にはたと倒れたる徐誠欣氏白寿待たずに黒南風とゆく

水澄みて瀬音やさしき谷の餌を錦鱗ピカリ鮠の早やわざ

徴兵のはがきの命長らへて短歌を嗜み余白を充す

朝露の招く光の露真珠バラを宿して消え散る雫

入学の曾孫に贈るランドセル蟻が十の絵切りはり届く

囀りの木立の風が目を洗ふ朝日に匂ふ萌芽の薫り

手作りの孫のカステラに「おたんじょうびおめでとう」の胸突く仮名字

 

 

 

育てしは誰                    林肇基

義援額一番の国に礼言へぬ日本外交診断は「脳死」

忘るまじ合格発表の帰途祝ひにと微笑む父とぜんざい一杯

北四島の沖波高く嗚呼UNも大和心もINL(国際法)も不在

愚かにもねむれる獅子を呼びおこし世の無法者に育てしは誰

共どもに米核傘の護る国相励ましつつ肩組みゆかむ

核持たず集団自衛ままならずなど強腰の術図らんや

衝つ込まれて真摯に受けて粛粛と対応せりとは流石弱腰

次の世は核無き国にてささやかなる自然の中の一員として

取られてはならぬフォルモサ号この海守る七艦隊の沈まぬ空母

権力に癒着せし者死後将に歴史とふ名の法廷に立たむ

誕生日孫のカードの可愛いさよユアマイグランパユーアーザベスト

先見えぬ原発憂ひ子ら諭す すこやかな日を無核の国にて

 

 

 

丹頂鶴舞ふ                    林禎慧

万全の防寒具つけ如月の函館空港子らと降り立つ

たらば蟹ずわい蟹毛蟹に帆立貝北海の朝市潮風匂ふ

雪祭り孫らの手をとり恐る恐る雪の宴の桜閣に入る

オホーツク海の碧空を背に白線の寄せくる流れ水軍団の如

砕氷船流氷めがけて突入す豪快無比かも爽快無比かも

バリバリと氷原砕く砕氷船デッキに立てば氷のあられ

「おばあちゃん、おいくつですか」と我問ふに「九十才と三ヶ月じゃよ」

シベリヤゆ飛び来し鶴を慈しみ増やせし嫗の皺は勲章

棍棒を片手に婆さんの威愒する「誰だ!アイスクリームをなめる奴は」

柵越しに見る丹頂の群羽ひろげ舞ふあり飛ぶあり名画さながら

北キツネ尾羽打ち枯らし檻の中化ける精なし二匹三匹

「まりも」冬眠の阿寒湖上の氷厚くマイナス20度に皆と抱き合ふ

 

 

 

故里よかりき                     林碧宮

風の音小鳥の声に馴染みゆくわが故里の日暮れやすくして

今ならば田舎暮らしに不自由なく住めば都とこころ和まむ

古き家日当たりのよく洗濯は手にてごしごし故里よかりき

誕生日は親の受難日と娘は云ふも母の苦労は如何程知れるや

親に受けし愛のぬくもり惜しみつつ仰ぐ白雲影の光りて

にこやかに手まねの身障者心通ずるか無言の世界

もの云へぬ猫のしぐさを見つめゐて心にひびく親と仔の愛

晴れやらぬ現し世の空降り続く天災地変如何に背負ふべき

危急ありて寸に乱さず飢餓あれど秩序守りてこれぞ模範なれ

しみじみと省り見る時人の和の重さ知るなり団結一途

傷は何時か癒さるるべし山鳩の声を包める朝の静寂

晩年は「自分作り」に努めよと先輩の声素直にて聞く

 

 

 

 

宜蘭                       林百合

誉れ高き友が受賞の喜びを分かち合はんと吾ら馳せ来る

県庁の受賞を知らす友の顔語りゆく程輝きを増す

雪山のトンネル越えて宜蘭市へ日本統治下の官舎見学に

門前には百年を越えたる老木が守護神のごとおのがじし立つ

老木は縦横に気根をめぐらして葉末ゆらして吾らを招く

建物は檜造りの屋敷にて「タタミ」や「フスマ」に日本が匂ふ

屋内に展示されたる文物に日本統治の過去なつかしむ

室内は寛ぎやすく端居より庭への眺めは繪の如きなり

築山や庭石などに過ぎし日の日本庭園まぼろしに顕つ

人去れど老木が代りて来る人に無言で語る世相の移りを

願はくばこの宜蘭市に末長く留めおきたし日本文化を

お別れに「さよなら」と暫し見返れば郷愁に似たる思ひ湧き出づ

 

 

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