八重桜かな 林蘇綿
李総統を産み育てたる三芝郷あの山この道八重桜かな
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人間とは妥協しない地震津波福島原発の事故ここに見る
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馬に乗り羊の群を追ふてゆくハザックの女菜の花さして
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「光輝ある軍旗の下に死ね」と言ふ師団長の言父驚かす
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メチブロンの燻蒸に死ぬゴキブリは壁に居残り生くるが如く
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短歌会にはたと倒れたる徐誠欣氏白寿待たずに黒南風とゆく
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水澄みて瀬音やさしき谷の餌を錦鱗ピカリ鮠の早やわざ
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徴兵のはがきの命長らへて短歌を嗜み余白を充す
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朝露の招く光の露真珠バラを宿して消え散る雫
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入学の曾孫に贈るランドセル蟻が十の絵切りはり届く
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囀りの木立の風が目を洗ふ朝日に匂ふ萌芽の薫り
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手作りの孫のカステラに「おたんじょうびおめでとう」の胸突く仮名字
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育てしは誰 林肇基
義援額一番の国に礼言へぬ日本外交診断は「脳死」
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忘るまじ合格発表の帰途祝ひにと微笑む父とぜんざい一杯
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北四島の沖波高く嗚呼UNも大和心もINL(国際法)も不在
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愚かにもねむれる獅子を呼びおこし世の無法者に育てしは誰
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共どもに米核傘の護る国相励ましつつ肩組みゆかむ
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核持たず集団自衛ままならずなど強腰の術図らんや
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衝つ込まれて真摯に受けて粛粛と対応せりとは流石弱腰
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次の世は核無き国にてささやかなる自然の中の一員として
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取られてはならぬフォルモサ号この海守る七艦隊の沈まぬ空母
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権力に癒着せし者死後将に歴史とふ名の法廷に立たむ
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誕生日孫のカードの可愛いさよユアマイグランパユーアーザベスト
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先見えぬ原発憂ひ子ら諭す すこやかな日を無核の国にて
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丹頂鶴舞ふ 林禎慧
万全の防寒具つけ如月の函館空港子らと降り立つ
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たらば蟹ずわい蟹毛蟹に帆立貝北海の朝市潮風匂ふ
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雪祭り孫らの手をとり恐る恐る雪の宴の桜閣に入る
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オホーツク海の碧空を背に白線の寄せくる流れ水軍団の如
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砕氷船流氷めがけて突入す豪快無比かも爽快無比かも
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バリバリと氷原砕く砕氷船デッキに立てば氷のあられ
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「おばあちゃん、おいくつですか」と我問ふに「九十才と三ヶ月じゃよ」
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シベリヤゆ飛び来し鶴を慈しみ増やせし嫗の皺は勲章
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棍棒を片手に婆さんの威愒する「誰だ!アイスクリームをなめる奴は」
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柵越しに見る丹頂の群羽ひろげ舞ふあり飛ぶあり名画さながら
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北キツネ尾羽打ち枯らし檻の中化ける精なし二匹三匹
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「まりも」冬眠の阿寒湖上の氷厚くマイナス20度に皆と抱き合ふ
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故里よかりき 林碧宮
風の音小鳥の声に馴染みゆくわが故里の日暮れやすくして
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今ならば田舎暮らしに不自由なく住めば都とこころ和まむ
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古き家日当たりのよく洗濯は手にてごしごし故里よかりき
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誕生日は親の受難日と娘は云ふも母の苦労は如何程知れるや
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親に受けし愛のぬくもり惜しみつつ仰ぐ白雲影の光りて
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にこやかに手まねの身障者心通ずるか無言の世界
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もの云へぬ猫のしぐさを見つめゐて心にひびく親と仔の愛
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晴れやらぬ現し世の空降り続く天災地変如何に背負ふべき
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危急ありて寸に乱さず飢餓あれど秩序守りてこれぞ模範なれ
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しみじみと省り見る時人の和の重さ知るなり団結一途
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傷は何時か癒さるるべし山鳩の声を包める朝の静寂
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晩年は「自分作り」に努めよと先輩の声素直にて聞く
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宜蘭 林百合
誉れ高き友が受賞の喜びを分かち合はんと吾ら馳せ来る
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県庁の受賞を知らす友の顔語りゆく程輝きを増す
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雪山のトンネル越えて宜蘭市へ日本統治下の官舎見学に
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門前には百年を越えたる老木が守護神のごとおのがじし立つ
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老木は縦横に気根をめぐらして葉末ゆらして吾らを招く
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建物は檜造りの屋敷にて「タタミ」や「フスマ」に日本が匂ふ
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屋内に展示されたる文物に日本統治の過去なつかしむ
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室内は寛ぎやすく端居より庭への眺めは繪の如きなり
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築山や庭石などに過ぎし日の日本庭園まぼろしに顕つ
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人去れど老木が代りて来る人に無言で語る世相の移りを
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願はくばこの宜蘭市に末長く留めおきたし日本文化を
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お別れに「さよなら」と暫し見返れば郷愁に似たる思ひ湧き出づ
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