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15集10

くじけずに                    劉玉嬌

筆舌につくせぬ惨事に祈るのみくじけずにとぞ届け日本へ

あつといふ間津波のすごさを被災者はおののき語る奈落への一瞬

震災に着のみ着のままと避難者は目頭押さへ明日のめどもなし

桜どきを震災児らの新学期母親の弁当食べたいなあと

追ひ打ちは放射能さわぎきびしかり悪夢の如と半径二十キロ

はげましのかたへにひそむ東電への怒りは還せ清きふるさと

久びさに見る日の丸のなつかしき東北へメッセージまごころこめて

往にし年祝祭日にかかげたる日の丸の旗風にへんぽんと

歌会の戻りの車中でサイン追加吾ら蓬莱の日本語族は

火薬アート蔡氏のインタビューなどてか馬の娘らこの職を選る

室内で火薬しかけて火がまはり胡台中市長見れば気絶すか

デコちゃんの渡世日記を読みなほす昭和のアルバム繙くごとく

 

 

 

語り残さむ                    劉心心

父親の慶事祝ひて帰国せし子等戻り行く曇り日の午後

絨毯の色古りたるを問ひたれば主逝きてはや十年なりとふ

窓口に灯り揺らぎし此の家に阿娘は寡婦の夜を過ごしゆく

真夏日のかげりし庭の花々の色香戻るを見るぞ嬉しき

テキサスの春の陽気に身をまかせ鳥の声聞く一年後の幸

温かき布団の洞に身を沈めさなぎとなりて春を待ちをり

人生の残り少なになりし今為すべき事の何かを思う

残すべきまことの事を我らこそ語り残さむ後の世のため

天災か人災なるか知らねどもただただ哀れ被災地の人

苦しみの極みの中を譲り合ふ日本の心よ世に誇れかし

台湾は初めてと言ふ日本客「日本語上手ね」と我を褒めけり

牽手とふ言葉の意義を思ひつつ八十路の夫婦助け合ひ行く

 

 

 

明日の灯り                    林聿修

鏡がの朝の池の面銀の糸引きつつ鴨の一日始まる

夕光に真珠がに揺るる蓮の葉のしずく明日への灯りをともす

明け方の夢に来し亡友まざまざし淡くしらじら浮く昼の月

一人にて生きて働く有難さNHKに見る「介護の短歌」

三角乗り自転車を漕ぐ兄の姿追ひて習ひし公学校一年

子らの服の残り地に縫ふクッション幼き彼の日のさざめき湧き来

実らぬも幸せの余韻消えやらず空襲最中の小さき初恋

明け告ぐる野鳩の声を雛鳥の甘ゆるがに聞く娘らの夢覚め

蝉時雨はたと止みたる娘の山家をそこはかと染む夜の帳りは

嵐山蔽ふ桜の花明かりに想ひは遠し傍へなる君

修羅場ともなるやも知れず寡婦と息の睦まじき家に嫁迎ふる友

嫁を褒め愚痴聞きやるが聡き姑と識りてより日日我が家和やか

 

 

 

老友  林月雲

気ずかひし災地の友はやうやくに連絡とれて今宵安らぐ

海へだて刻流れてもなつかしや老いしやがれたる旧友の声

その昔はらからのごと気がねなく語らひ尽きぬ二人仲なり

お互ひに言ひ放題で笑ひこけ苦労知らずの年頃なれば

浮び来るあんな若さも有りにけり戻らざるかな乙女の日日は

大戦の最中なれども世知らずは明日の太陽永久と信じて

セーラ服ぬぎて別れし異国友浮き世の嵐たのもしく越え

父君と二人し再び来られたりと吾がプレゼントは黄金のリング

言はずとも仕合せさうな表情に友の未来は明るく見ゆる

心とは不思議なものよ見えざれど浮きしずみつつもろくも強し

災地にてさぞや苦労も有りなむとグルメ送りぬわが老友に

百二十生きぬき行かむと笑ひたる海をへだてしほがらかなる声

 

 

 

許文龍氏を讃へて                林燧生

奇美グループ世界トップの樹脂メーカーは我等歌壇の心の支へ

経営に後藤イズムを活かされし許文龍氏思惑深かり

前向きの荘子の思想身に備へ飄々とせる無為自然の師

創業の歴史五十年危機感を転機となせし心の一徹

管理なきシステムにより人性を無限に活かす許氏の哲理は

ヴァイオリン奏づる姿音楽の香気に満つる人柄ゆかし

道楽の極致行き着く海釣りで自然に溶くる心の余裕(ゆとり)

後世に文化遺産をのこさむと奇美博物館遠見尊し

奇美医院医療文化の改革に先駆けとして突っ走り行く

財産は子に残さずと貢献す稀なる企業家許文龍氏は

政治的色彩染まらず単純に観念一途の異色のリーダー

文龍氏我等が鑑皆共に思ひ学びて歩み行くべし

 

 

 

曾祖母の喜び                     林素梅

曾孫に「阿祖」と呼ばれうれしさにお年玉あげて両手に抱き上ぐ

曾孫の片言甘く眼も可愛い我が家の宝とみな競ひ抱く

アメリカの孫曾孫の帰り来て日日を賑はひ食事も楽し

騒ぎたる孫ら離りし静けさは嵐の後の静けさに似て

花博を車椅子にて廻り見る萬花競艶驚嘆あるのみ

墓参りに集ふ(うから)は食事中つきぬ話題を共に語り合ふ

花博の景観創意のすばらしさ世界に誇る台湾文化

未曾有なる大地震津波国難に雄々しく立てる大和の民族

テレビにて見たる津波のおそろしさ家家具なべて一気に攫はる

人生の喜怒哀楽をのりこえて望み願ふは健康の幸

米寿越え健忘症を如何にせん忘れな草の歌思ひ出す

老いて思ふ育児に家事に励み来し女の道は険しかりしと

 

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