道草道中 陳秀鳳
万歩計今日も万歩で負けまじと老骨挑むハードスケジュール
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野花摘みシャボン玉とばす夕暮れは今日の散策道草道中
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三年前扶き直したるピンクのバラ今や村娘もレディと化しぬ
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奔り去る汽車は汽笛を鳴らしつつ今宵も急かず夢路へ誘ふ
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みどり児の育ちゆくごと爺の花夏日に映えて色あざやかに
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バラにひかれ匂ひをかぐは薄れゆく母の記憶を呼び醒まさんため
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老いてなほ日日ボランティアに励む夫健康給ひし神に感謝す
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遠嶺を見つつあゆみし山われに吸はるるごとく心寄り来る
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朝野道にベビー靴一つ主待つテディ熊寂し目に光る露
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愛孫が花束くれて抱擁(ハグ)をする温もり伝ふハッピーのひととき
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水筒をお守りのごとく持ち歩き絶えず飲みては夏負け防止
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秋雨に濡るる扶桑は嬉しげに空仰ぎ居り猛暑忘れて
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故郷遠し 陳淑媛
嫁ぎゆく孫へ伝来の数々を贈るも要らぬと若き世代は
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果しなき空水色に暮れ残り遥けきものへ思ひを誘ふ
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風に舞ひ散る茉莉香のそつと積む五月の雪の白き花びら
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ゆらゆらとたわわに稔る桑の実を君と捥ぎし日の故郷遠し
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流れゆく黒潮の波ただ迅し蓬莱島に吹き来る風は
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アポロ木の花咲き初めて夕映への街並遠く黄に煙るなり
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ひぐらしに過ぎゆきし日の甦る夫在りし歳月(とき)の楽しき我が家
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大陸に一辺倒の馬政権に美はしき島は売られゆくかな
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営営と祖先築きたるフォルモサをなどて大陸に統一されゆく
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南国の風にさゆらぐ並木道菩提樹の葉の万の煌めき
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木欒子の並木黄に朱に移ろひて一際はなやぎ街並飾る
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ひたすらに歌の道歩む幸せをかみしめて年重ねゆくかな
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故台大精神科初代主任林宗義教授を偲ぶ
陳珠璋
帰国する黒澤教授と握手せし歴史場面の印象深し
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傘さして診療されし破れ屋を修繕したる「先智」の助け
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父親の行方不明に拘らず精神医学の道開き行く
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アテブリン健康人に服用の卒業論文指導ありがたし
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三名の助教と共に踏み出せし講師主任の新たな任務
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木柵と新埔安平三地区の一斉調査功績逞し
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ハーヴァードへ推薦研修二年余りに団体治療の基礎固めたり
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台湾を離れし時に意外にも代理主任の職まかせられ
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精密な世界衛生組織でのIPSS規劃たのもし
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六年間分裂病の研究に八個国との提携睦まじ
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十七年振りの帰台に再会し万感こもごも深き人道
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太平洋地区の会議の挨拶に我が努力をばたたへし喜び
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アンコール・ワット 陳瑞卿
アンコールワットは七大奇景なり世界文化遺産人類の至宝
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世界最大の神廟でカンボジア王朝が遺した不朽の建築
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王二世が信仰の神ヴィシュタ(守護神)に捧げたる砂岩彫刻の寺院
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印度教は善悪を基礎に人間は幾度輪廻を繰り返すとふ
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輪廻より逃るるために神祀り王は信じぬ神との一体化
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五基塔の中央高さ65m石段は狭く急勾配にて
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石段は考古学者が転落し惨死以来を通行禁止
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バイヨン寺は王七世が微笑みの観音四面佛を建立(最盛期)
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四面佛は昔も今も微笑みと恵みを人らに送り賜へる
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女皇宮は精彫細琢でピンク色女神は日々を触られすべすべ
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ガジュマルの巨根が廻廊の屋根をわしづかむシーンに皆肝冷やし
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外患と癲病に国の衰へて遺跡は捨てられ四世紀埋もる
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人の道仏の道へ 陳清波
的定め挑む水底餌漁り巣立ちて間なき健気な小鷹
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踏まれても根強く起きる道辺の草学びて歩む世の道標
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有漏の娑婆南無阿弥陀仏称へつつ進まん道は浄土の無漏路
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娑婆の世に生くる四苦八苦何のその弥陀の名号を称へば浄土へ
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番鳥枝さし向かひ囀るは音色違へた愛の囁き
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年一度牛郎織女の再会を惜しみて降るや七夕小雨
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嵐過ぎ流れ来たりしバナナ樹を繋いだ筏で餓鬼ら川下り
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阿呆でも佛の尊さ身にしめば信心頂き浄土往生
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道端の草葉の露を見詰むれば知らず溶けこむ雫の一つ
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さらさらと梢を渡る風の音に木漏れ陽浴ぶる山路さやけく
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糸垂らしはやる心を押さへども浮子に引かれて浮きつ沈みつ
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雲の上に乗せられたがにひとりゆく空の彼方の孫子と逢ひに
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この世の旅 鄭 静
呉港を汽笛鳴らして船出たり霞む波止場にかもめ群れとぶ
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肩抱きて泣く留学生よ祖国とも思へる日本に涙の別れ
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かもめ飛ぶ波止場に手を振り来年は帰ってくると泣きし日の顕つ
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基隆の港に別れし彼の人をふと思ひ出づ恙なきやと
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祖父危篤に呼び帰されし里の道甘蔗の畑に夕焼もゆる
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祖父逝きし家業継ぎたる父にしていつしか日本は遥かに遠く
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目標にスタートをする夫と我舵あやつりてこの世の旅に
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ゆくりなく若き師生を包みたる夕日あかあか椰子の葉かげに
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足ぬらし草のつゆ踏む校庭に幼は影ふみ我は後追ふ
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留学の試験にパスせし吾子達は明日への希望にゲートをくぐる
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五階より町見おろせば街灯のほのかに揺れて美しきかな
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「空巣症」受話器の側に座りこみ子等の電話を待ちにし日浮ぶ
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