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14集8

道草道中                                         陳秀鳳

万歩計今日も万歩で負けまじと老骨挑むハードスケジュール

野花摘みシャボン玉とばす夕暮れは今日の散策道草道中

三年前扶き直したるピンクのバラ今や村娘もレディと化しぬ

奔り去る汽車は汽笛を鳴らしつつ今宵も急かず夢路へ誘ふ

みどり児の育ちゆくごと爺の花夏日に映えて色あざやかに

バラにひかれ匂ひをかぐは薄れゆく母の記憶を呼び醒まさんため

老いてなほ日日ボランティアに励む夫健康給ひし神に感謝す

遠嶺を見つつあゆみし山われに吸はるるごとく心寄り来る

朝野道にベビー靴一つ主待つテディ熊寂し目に光る露

愛孫が花束くれて抱擁(ハグ)をする温もり伝ふハッピーのひととき

水筒をお守りのごとく持ち歩き絶えず飲みては夏負け防止

秋雨に濡るる扶桑は嬉しげに空仰ぎ居り猛暑忘れて

 

 

 

故郷遠し                                         陳淑媛

嫁ぎゆく孫へ伝来の数々を贈るも要らぬと若き世代は

果しなき空水色に暮れ残り遥けきものへ思ひを誘ふ

風に舞ひ散る茉莉香のそつと積む五月の雪の白き花びら

ゆらゆらとたわわに稔る桑の実を君と捥ぎし日の故郷遠し

流れゆく黒潮の波ただ迅し蓬莱島に吹き来る風は

アポロ木の花咲き初めて夕映への街並遠く黄に煙るなり

ひぐらしに過ぎゆきし日の甦る夫在りし歳月(とき)の楽しき我が家

大陸に一辺倒の馬政権に美はしき島は売られゆくかな

営営と祖先築きたるフォルモサをなどて大陸に統一されゆく

南国の風にさゆらぐ並木道菩提樹の葉の万の煌めき

木欒子の並木黄に朱に移ろひて一際はなやぎ街並飾る

ひたすらに歌の道歩む幸せをかみしめて年重ねゆくかな

 

 

 

故台大精神科初代主任林宗義教授を偲ぶ           陳珠璋

帰国する黒澤教授と握手せし歴史場面の印象深し

傘さして診療されし破れ屋を修繕したる「先智」の助け

父親の行方不明に拘らず精神医学の道開き行く

アテブリン健康人に服用の卒業論文指導ありがたし

三名の助教と共に踏み出せし講師主任の新たな任務

木柵と新埔安平三地区の一斉調査功績逞し

ハーヴァードへ推薦研修二年余りに団体治療の基礎固めたり

台湾を離れし時に意外にも代理主任の職まかせられ

精密な世界衛生組織でのIPSS規劃たのもし

六年間分裂病の研究に八個国との提携睦まじ

十七年振りの帰台に再会し万感こもごも深き人道

太平洋地区の会議の挨拶に我が努力をばたたへし喜び

 

 

 

アンコール・ワット                              陳瑞卿

アンコールワットは七大奇景なり世界文化遺産人類の至宝

世界最大の神廟でカンボジア王朝が遺した不朽の建築

王二世が信仰の神ヴィシュタ(守護神)に捧げたる砂岩彫刻の寺院

印度教は善悪を基礎に人間は幾度輪廻を繰り返すとふ

輪廻より逃るるために神祀り王は信じぬ神との一体化

五基塔の中央高さ65m石段は狭く急勾配にて

石段は考古学者が転落し惨死以来を通行禁止

バイヨン寺は王七世が微笑みの観音四面佛を建立(最盛期)

四面佛は昔も今も微笑みと恵みを人らに送り賜へる

女皇宮は精彫細琢でピンク色女神は日々を触られすべすべ

ガジュマルの巨根が廻廊の屋根をわしづかむシーンに皆肝冷やし

外患と癲病に国の衰へて遺跡は捨てられ四世紀埋もる

 

 

 

人の道仏の道へ                                   陳清波

的定め挑む水底餌漁り巣立ちて間なき健気な小鷹

踏まれても根強く起きる道辺の草学びて歩む世の道標

有漏の娑婆南無阿弥陀仏称へつつ進まん道は浄土の無漏路

娑婆の世に生くる四苦八苦何のその弥陀の名号を称へば浄土へ

番鳥枝さし向かひ囀るは音色違へた愛の囁き

年一度牛郎織女の再会を惜しみて降るや七夕小雨

嵐過ぎ流れ来たりしバナナ樹を繋いだ筏で餓鬼ら川下り

阿呆でも佛の尊さ身にしめば信心頂き浄土往生

道端の草葉の露を見詰むれば知らず溶けこむ雫の一つ

さらさらと梢を渡る風の音に木漏れ陽浴ぶる山路さやけく

糸垂らしはやる心を押さへども浮子に引かれて浮きつ沈みつ

雲の上に乗せられたがにひとりゆく空の彼方の孫子と逢ひに

 

 

 

この世の旅                                       鄭 静

呉港を汽笛鳴らして船出たり霞む波止場にかもめ群れとぶ

肩抱きて泣く留学生よ祖国とも思へる日本に涙の別れ

かもめ飛ぶ波止場に手を振り来年は帰ってくると泣きし日の顕つ

基隆の港に別れし彼の人をふと思ひ出づ恙なきやと

祖父危篤に呼び帰されし里の道甘蔗の畑に夕焼もゆる

祖父逝きし家業継ぎたる父にしていつしか日本は遥かに遠く

目標にスタートをする夫と我舵あやつりてこの世の旅に

ゆくりなく若き師生を包みたる夕日あかあか椰子の葉かげに

足ぬらし草のつゆ踏む校庭に幼は影ふみ我は後追ふ

留学の試験にパスせし吾子達は明日への希望にゲートをくぐる

五階より町見おろせば街灯のほのかに揺れて美しきかな

「空巣症」受話器の側に座りこみ子等の電話を待ちにし日浮ぶ

 

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