老いの呟き 荘進源
台湾の環境保護の基礎築きわが半生に成就感あり
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父の日と新旧暦と誕生の祝ひを受けて満ち足るる我
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目手足の反応良しと自負をして八十路の爺バイク乗り回す
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ひらひらと落ち葉が風に舞ひ散りて初秋の画を狭庭に画きぬ
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初秋の吾庭飾るか七輪の桜咲きたりいといぢらしく
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山荘のバルコニーにて見晴るかす渓谷美に吾陶然とせり
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じりじりと肌刺す熱さに苛まれ秋待ち遠しき酷暑の日々かな
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今も尚化粧時間の長い老妻気長に待とう朝の外出
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呆け防止カラオケ歌ふ八十爺微笑よしもすこしうら寂し
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エアコンが要らない秋は心地よし電気水道の費用も減りて
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中共の横暴恐喝いつ果つる国連の悩み台湾の悲哀
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破廉恥の総統選び台湾は自業自得の火に苛まれ
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名にし負ふ 田上雅春
万代に語り継ぐべき名も立てず果てし士(をのこ)の無念(おもひ)を偲ぶ
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かにかくに古代人の詠みたりし歌に密めたる裏を解きなむ
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万代に語り継ぐべき名を密めし史(ふみ)をば孰(いづ)れ解かで措くべき
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書くものは一巻にあらず二巻の巻頭の歌そ敏くにか解かむ
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新高の山百合の花その横の木を取る女史敏(をみなはしこ)く慧し
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花白く葉は萌黄なす新高の山百合を敏く名乗るも慧し
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もみぢとて黄の葉と書くは万葉と敏くと教へむ慧き子らにも
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もみぢをば紅の葉と記せるは万葉と敏くと教へむ慧き子らにも
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もみぢをば紅の葉と記せるは抑(そも)古今集よりのならはし
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ホトトギス鳥の名のみと思ひしに同じ百合科の花もあるなり
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百合科なる秋咲く黄花杜鵑草敏くと知るこそ慧き者なれ
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花の名を高砂百合と知りてゆりなじかは知らね直に恋しき
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心あったか 舘量子
道迷いにぎやかな音に近づけば心あったか日本語カラオケ
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台湾語教えてくれるご近所さん今日もいるかな期待に歩く
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いただいたオクラがあまりにおいしくて夏の終わりよ待ってと願う
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神奈川県廣枝警部の生まれた地守れて嬉しと警官の友
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故障したパソコン持って爺の家屏東に住むパソコン名医
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除隊時は上等兵だとはにかめば僕もそうだと話のはずむ
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お見事な木刀代わりの傘さばき昔にやったと八十路の笑顔(郭振純さん)
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「いちにい」と足杖交互に歩調とり楽しく入る日本料理屋(冬梅さん)
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誕生日母より軍歌の大全集やっと歌える次のカラオケ
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行きつけの本屋で見かけるお爺さんルーペ片手に日本語書籍を
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台湾の未来を想い大吉のおみくじ取り出し「うん」とうなずく
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いつまでも守り続けます大好きな強く明るい台湾短歌を
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皆会ひたくて 趙寛寛
波の中を浮きつ沈みつ若き等の勇敢なるあそび呆然と見てをり
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筆とりて文書きをれば友の顔思ひ出しをり皆会ひたくて
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仕事の為トロントに住む孫娘を思ひ出しをり秋深き夜に
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一人寝をこはがりし孫のいつしかに一人で住みをり遠きトロントに
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思ひ切り捨ててしまはう古着等思ひ出ぎつしり未だ捨て得ず
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甘い物はもうやめたときめたのにあちらこちらと探す昼下がり
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ごぶさたせし友と遭ふがに娟々さんと語らひつきぬ早日がくれて
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不躾なる吾を厭はず懇に聞き入りくるる友の一人ふえ
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ラヂオよりなつかしきメロディ聞こえきて背を伸ばしてタンゴ踊りみる
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肩の荷を皆下ろした吾なのにあちらこちらで日ましに重くなり
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昨夜見し夢の中なる主人公なんと私の童物語り
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久しぶりに歯科医の椅子に坐しおれば抜歯の恐怖今更新たに
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島の年明け 張國裕
年明けて高嶺を飾る瑞雪に鳥が謳へば花も微笑む
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不景気の風吹きすさぶ年の瀬に紅葉の旅の小憎い誘ひ
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鳥歌ひ花咲きほこる春に酔ひテレビも踊る雛祭りかな
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目にやさしく緑の風も朗らかに若葉の香り野山に溢るる
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せせらぎは花びら乗せて清く香り瀬音涼しく蝉の声呼ぶ
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蝉の声暑さにまけず賑はしく清き風呼ぶ秋の爽やかさ
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鶏の呼ぶ野道を行けば露宿る朝顔の花白髪にやさし
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夏休み海山めざし今日もまた南風に送られ家を発つ我
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選ぶべき人誤りし住民の心いたはる初蝉の声
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一抹のぬくもり給ふ日こぼれよ照らせや島に幸の光を
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(以上十首は亡くなられる一週間前に送られてきた短歌
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恩讐超えて 陳皆竹
統一も独立も集ふ教会に恩讐超えて佛陀は笑まふ
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統独はどこ吹く風か貰ひたる犬のひねもす尾を振りゐたる
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外省人の妻は傲岸と宣へり十億の唾で島沈没と
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親族でも政党の支持異なれば無智を蔑み悲憤慷慨
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国姓爺を海賊の子と貶したれば鄭氏の裔の友は目を剥く
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大八車で運賃稼ぐ理科教師は引き揚げまでの糊口を凌げり
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松の内早くすぎよと注連縄に付きたる蜜柑を日毎眺めり
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自転車に電灯付けず巡査より戸主はと問はれ十五と答ふ
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老いわれの流行に持てる「ケイタイ」は安否問はるる機械に過ぎず
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八十すぎの嫗もうすく紅差せばぐるりの翁禿を気遣ふ
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宗教の異なる故に対立し耶蘇と釈尊緑藍に分かつ
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佛光の法衣に潜み台湾に「台人」は居らぬと坊主はほざく
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