バックナンバー‎ > ‎14集1‎ > ‎

14集4

時空を旅ゆく                                     黄教子

失望と希望の(あはい)行きかひてこの先われにある幾年か

子を谷に落す勇気の吾に無く翼の下に温むるのみ

人の世の嘆きこの身に重くとも歩み続けむ光を恋ひて

仄かなる明り求めて歩みゆく未だこの世を信じてをれば

逆境にありて知りたる真心の人らの契り楽しきろかも

順境にあらば見えざりし人の世の真如を垣間見し思ひにて

裏切りし人の謝り投資金返すと言ひたり罪を恐れて

十年の歳月長しされど吾には生くる勇気を与へくれたり

おぼつかなき歩みと言へど生かされて今日あることを(も)へば畏し

今は亡き歌友の顔のをりに触れまなかひに顕つ何か言いたげに

亡き友らの歌読みをれば留めたき思ひ次第に膨らみてくる

行く川の流れに瞬時を同じくし時空を旅ゆく歌の仲間は

 

 

 

不沈の空母―タイワン                             黄培根

馬総統の統一理念鞏固なり赤化の足音徐々に迫り来

無能不徳経済衰退治安悪化人心不安生活険し

対岸のミサイル眈々と脅威日に増し海峡の波涛依然と高し

台湾は不沈の空母の誉れあり乾坤一擲この地を守らむ

政治家は嘘に法螺吹き貪欲で無法横行が新三神器

小雨降りリュウマチの老妻今日もまた足をひきずり買出しに急ぐ

八十路過ぎ無憂無慮に小酌にて日々万歩歩み幽界断り

良き友よ次々と去り相囲み同じ釜の飯食みし日偲ぶ

就職難博士碩士が相競ふ鉄路工夫に父母天を仰ぐ

若者に伍して歩める一萬歩額ににじむわが老いの汗

初サラリーで孫送りくれしケイタイを事なきに時間きくヤボ爺に

八十路過ぎ苦楽乗り超え願はくば明るく元気なわがフィナーレを

 

 

 

台湾の手本とやせむ                               蔡永興

絶壁を重ねて高き青空にとどけとばかりせせらぎの音

三十年タロコ峡谷変はらねど面影のみの母とはなりて

花の(へ)を我が物顔に飛び交ひて楽しむ蝶に我はなりたし

花の上を我が物顔に飛び交ひて楽しむ蝶のいと羨まし

三十年を過ぎていよいよ懐かしき先立ち逝きしわが子偲べば

台湾の手本とやせむ千年をかけて独立のアイルランドを

たそがれに白き帆影の行く見えて友と美酒飲む船の窓辺に

黄金色に染まるヨットの流れ行く窓の景色は生ける絵となり

老いきたる我ら夫婦の船旅に来る年にもと神に願へり

ノルマンディーの激戦の跡生なまし斃れし英霊安らかにと祈る

見れど飽かぬ小便小僧に誘はれまた訪なひぬここブリュッセル

世界遺産と思へば苦もなく登りたりモンサンミシェルの三百余段を

 

 

 

霧の摩周湖                                       蔡紅玉

最後だよと娘説きふせ伴ひて行く五日のコース北海道の旅

直航の千歳空港は客まばら待ちゐしバスにて十勝登別へ

年経ても嘗て愛せし日本には郷愁にも似る感傷よぐる

くちずさむ「知床旅情」に思ひ馳せ最果ての岬に車は急ぐ

フェリーに乗り知床岬のそそり立つ崖を飛び交ふエリカを眺む

幻の霧に包まるる摩周湖の晴れに出会へるはラッキーと言ふ

黒ずみし森に囲まれ摩周湖は静かに澄みて神秘なベールに

摩周湖の脇の土産店立て札に夕張のメロン一切れ百円と

滔々と落ち来る瀧の音聞こゆ阿寒湖畔の宿温泉のあり

ラベンダーを追ひ来し富良野は盛り過ぎ丘は他の花色鮮やかに

小樽市のガラス工場にて思ふかな台湾瑠璃の見事なる技術

北海道の広大なる土地は保護されて今や少なき世界の浄土

 

 

 

六十五年                                         蔡焜燦

我が戦友(とも)(なれ)との縁六十五年(むそいとせ)何ど旅立ちぬ吾に告げずに

我が戦友よ八十路越えたる歳なれど昔と変らず悪態交はす

あおによし奈良の都の学び舎で空飛ぶ夢見て共に学びし

若草山一気に駆くる汝を見つつわれも駆けたり軍事演習

台湾の飛行兵たち選ばれて米軍来るまで学校守る

我が校の武装解除に十七日薄暮の中を寂しき式典

京美山紅葉色映え山あひで炭を焼きし日六十五年前

京美山渋柿と知らずかぶりつく台湾出身日本兵われの

京美山生まれてこのかた初めての生松茸を涙して食む

京美山戦後の貧しきときなればあざみの葉など摘みて食みたり

京美山炭焼き窯場でひもじさにどんぐり拾ひ山芋掘りたり

京美山満山紅葉の山間の藁葺きの家ただに懐かし

 

 

 

大湖公園                                         蔡佩香

台北市成功路経て五段目の大湖公園は多彩なる園

広き湖と深緑山MRT駅プールと芝生で成りたる公園

(うみ)(も)にかかる弧形の錦帯橋九曲橋の目を引くあづまや

湖辺に鷺幾羽かが立ち番のあひる鵞鳥の家族湖に悠然と

休日のプール子供区は童らの楽しき天下常に満員

MRTが繁く行き交ふ大湖駅の景色の明媚さ賞賛浴びをり

芝生区の広場各種の集会に向き幼児らの遊び場ともなり

内湖区のシンボルとして錦帯橋常に人らのカメラを集む

山麓より向ひを見れば五指山等麗しき山並み人目を奪ふ

朝あけの公園運動なす人で賑はひ活気に満ちて居りたり

朝夕の湖に釣竿を垂らす者佳き収穫に皆喜々として

夕暮れのロマンチックなる灯点もる頃恋人達の楽園となり

 

Comments