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14集2

                                             北嶋和子

幸せの小さき部屋にぞ満ちわたる炊き上がりたる米の香りの

繁華街の裏道の闇照らしゐて月は小さき空に輝く

嫁ぎきて三十年何も無き如く過ぐるは神の御守りあれば

久々の陽を楽しむや親子亀大き甲羅のいとも頼もし

故郷の味と匂ひをぎゅうと詰め子に宅配を今日送りたり

台湾の街に溢るる思ひやりしかと受け止め友等帰国す

飛行場国の内外を分けゐたる一枚(ひとひら)ガラスの不思議空間

よく泣きし息子は礼服に身を纏ひ瞳輝く妻娶りたり

色直しに警察帽をかぶりたる息子に入園の日の面を見る

喜びは力となるや杖放ち阿美の翁の踊り軽やか

節操の失せたる闇き日本に光を放つ侍イチロー

校庭のトラック子等の群走る瞳清しや高き青空

 

 

 

老いのあれこれ                                   胡月嬌

今日ありて明日ある老いの日々なれば穏しくをこそ生命ありがたく

行き届く吾子の代行てきぱきと生命あづけて老いの安らぎ

死に水を取りくるる子等近くゐてテレビと短歌に明け暮るる日々

いつ迄もあると思ふな親と金風樹の嘆の教へ忘るな

来年の母の日吾の在り得るや心許なく子等には言へず

老いの日々急がば廻れとマイペース仕事の合間休み忘れず

夜もすがら寝かせずの雨の苛立たし浸水恐れ見廻りの二時

正午はも真夜より静か七月の猛暑に人等只ひそむのみ

嵐去り洗濯物を又(いだ)し老いも(すが)しと風に吹かれ居り

今ぞ知る善には善報人の世は御摂理あれば老い言問はず

趣味と事業両立させて許文龍風格自づと紫雲の高嶺

吹く風の涼気著けくいや増して惑ふ重ね着あれやこれやと

 

 

 

昔のこと                                         呉炎根

政党と財閥に国を牛耳られ彼等富ます為民は汗流す

党歌が国歌といふは納得ゆかぬ独立とふは子供だましか

のき借して母屋を取られ泣きねいり独立は夢のまた夢なるか

としよりのただのあきらめを悟りしがに悩める友にアドバイスする

孝行が死語になりつつある現在長命するとは皮肉なものよ

ねむれぬ夜は無理にねむらうとせず歌本をよめば人生長く

恋愛と死には年令の制限なくある日突然おとづれてくる

カタカタと孫の好みてはく下駄は亡きおぢいちゃんの日本みやげ

としよりが大事にされしは昔のこと今は子供が一番大事

雷にへそとらるるは昔のこと今は色狼(おおかみ)にとらるるかもよ

でつちりは下品といふは昔のこと今はスタイルの美のポイントなり

芸人がさげすまれしは昔のこと今は地位上がりても悪手本ばかり

 

 

 

花の香にほふ                                     呉順江

何時しかに鳥が運びし花の種芽生え育ちて蕾ふくらむ

道端のひそやかに咲ける小さき花風に揺れつつわれ差し招く

露の玉睡蓮の上に虹色の光放ちてころころ走る

名も知らぬ赤き野花を見つけたり鉢に移せば蝶が舞ひ来る

満開のカポックの花艶やかに朝日と競ひて春をことほぐ

朝方に蕾のままの月下美人深夜に咲きて清しくにほふ

古びたる雨戸をそっと開けたれば清きザボンの花の香にほふ

うつせみの憂ひを知らぬ白き花朝日に映えて蝶々誘ふ

北国の共に賞でたるハマナスは友逝きたれば色褪せにけり

盆栽の花を散らして戯るる二羽の小鳥を追ふに忍びず

地に落ちしジャスミンの花手に載すれば甘き香りの仄かに匂ふ

垣越しにやさしく咲ける花一枝色香たたへて手折るに惜しく

 

 

 

十月の光輝                                      呉戀雲

十月の双十節に台湾の団結の歌を高らかに唄ふ 註(国歌)

台湾の平和を祈り藍緑の団結を願ひ選挙に望む

九九の重陽節に子ら孫も祖先に感謝の線香を上ぐ

台湾の次の世代の教育を重視する事を切に祈らん

悦びも悲しみも短歌に幸せの台湾歌壇老いのオアシス

第一吊で奇跡に助かりチリ工の救難美談世界に広ごる

チリ工は世紀の難にくじけずにみな助け合ひ涙にむせぶ

「臭豆腐」「猪血糕」の台湾の食物は世界に例へやうもなき

学生の発明コンクールに十二面の金メダルを取り世に名を揚ぐる

人民の選挙の票で藍緑の勝利をきめる台湾よガンバレ!

幸せを唄ふ短歌は台湾の精神を伝へ感謝ひとしほ

台湾の正義の精神忘るなと歌壇の老いは短歌を詠みゆく

 

 

 

                                               高淑慎

慰めの声も何せむ四十路にて視力失せたり白内障で

嘉義の医師高雄の医師と尋め行きて手術と聞きて怯へ帰り来

台大に紹介されてオペを受く「若いね」と医師の訝る声す

「大正の生まれですよ」「僕もだよ」同年だよと呵呵と笑ふ声

手術前「サ始めますよ」と医師の声日本語に何故か安らぎ覚ゆ

回診の度にジョークを交はす声入院十日「お世話様でした」

四ヶ月後更に左眼のオペ終へて「バイバイ」の声後に退院

手術後を千二百度の眼鏡かけ半年振りに同僚の声聞く

入院中親戚友の見舞ひ受け顔は見えねど声は忘れず

鬱積せる心の悩み図らずも外界の声に触れて癒さる

失明して見えざる物が見ゆるとふ真理の声を吾も諾はむ

時移り白内障は日帰りで簡単にすむとふ世相の声

 

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