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14集10

地球温暖化                                       游細幼

偉大なる世界遺産の床しさをテレビ旅紀行の映像に見る

音消して静かにテレビ映像に見入る乱世に地球の病

地球温暖化にはかに進み北国も気温益々高きこの夏

まどかなる地球を誰も疑はずその(へ)の世界は闘ひ止まず

デモ誘拐水災被害につながれる地球は重き病に悩む

児童誘拐事件の多き世となりて自在に遊びし杳き日を恋ふ

咲き競ふ乱世乱菊に馴染みゆく吾が同胞のありてせつなし

移りゆく世を嘆かむや澄み渡る真夏の空に吐く息太し

水災の被害に滅ぶ昔日の景観すべての面目失せり

不景気の風吹きすさぶ上空を旅客機爆音立てて飛びゆく

長き樹齢保ち紅檜なほ繁茂する人の寿命は斯くも短し

官邸の古きに添ふて百年の世を眺めしや樟大樹(宜蘭官邸記念館)

 

 

 

月のみぞ知る                                    姚望林

深夜にて一人で唱ふ「宵待草」月のみぞ知る心の奥を

一日終へ淡水河口に集ひ見る茜に染まりふくらむ夕陽を

缶詰のうまき餌食む白き犬アフリカの孤児はゴミの山あさるを

おみやげに息子のくれたる和服をば着けて書斎に和歌を詠みをり

線香をたかだか掲げ人の波旧正月の関帝廟は

昼もなく夜もなくして妻はげむ年末年始家事果てしなき

六十年つきあひしたる(ともがら)と花見の後を温泉につかる

清明節年に一度の逢ふ瀬なり去り逝く時も逢ふ時も無言

木から木へはしこく飛びゆくリスたちよ餌なげやればささげもちて食む

二〇一〇上海万博台湾旗なく台湾館は中国の版図に

万仏の彫刻店にわれ一人佇みをれば身の引きしまる

夏休み帰り来たりし孫むすめ手作り料理におみやげ話

 

 

 

春匂ひ初む                                       頼淑美

この住まひ今日も日の出に目覚めゐてもろもろに謝しひと日始むる

母の日にママ好きでしょと手造りの数珠をくれたる我が子愛しき

大寒と今日といふ日に南風吹きて柔き日射しに春匂ひ初む

せせらぎも蝉の鳴く音も包み込み秋の気配の朝匂ひ立つ

飛行機の窓に顔寄せ見とれたり茜の雲の夕映えの空

茜雲夕空染めて玉の火の水平線に呑まれ沈みぬ

緑影落とす流れの碧き上に川靄かかりゆく谷の黄昏

海風にかじかみて入る露天風呂幸身に余るこのひと時や

上弦の月海原に影落とし一つ灯はるか二人寄り添ひ

絶えまなく雨降りしきり秋深し泣くが如くに窓鳴らす風

湯の面に朝日影射す室壁に踊るモザイク現れ出でて

銀齢の姉妹集ひて童心に騒げば雷共に鳴りけり

 

 

 

若き日の夢                                       李英茂

木の下に草をば敷きて空仰ぎ歌ふは過ぎし「若き日の夢」

虫の音に眠れぬ夜は指折りて静かに数ふ亡き友の数

シャボン玉吹く孫娘を機関車に後に続くはわれらが客車

さはやかな車窓の美女に見とれしがふいのあくびに慌て目を伏す

声立てて笑へば鬱もとぶと言ふ朝日に向ひはっはっと叫ぶ

秋雨に帰る生徒らさす傘のゆらゆら泳ぐ金魚のごとく

老体のあちこち痛むは朗報で未然に大病防ぐ効あり

水田の切り株にまた稲穂伸び食い放題と群がる雀

カナダ雁群飛ぶ原を幼なと追ふ今年も来たぞ孫娘住む街に

原つぱで元気に朝の太極拳車椅子らも座をきしませて

超豪雨ただ一面に水の郷暗き家々蒼白き月

猛暑日に影をひそめしハイビスカス一気に咲きぬ秋雨の中

 

 

 

阿里山日の出                                     李錦上

ふるさとの朝の空気を黄に染めて菜畑の中自転車にゆく

古ぼけし母の箪笥の抽出しに金絲刺繍の財布出で来ぬ

はらはらと父母恋しむこの日頃紅茶をいれてアルバムめくる

白鷺は青田の畦に遊びゐて夕日遥かに水絵を浮かす

吾が名前焼きたる湯呑み掌につつみ杳き日偲び白湯を飲みをり

日本に捨てられしより台湾は戦争孤児とし生き長らへぬ

雲海が赤き玉子を生むごとく阿里山日の出皆静かなる

九份の「悲情城市」のロケの跡赤きらんたん思ひ出揺らす

ヘルメット顎紐しかと引き締めて鉄骨階段かたかた上がる

台北の昼のひそまり貫きて舗道工事のドリルいななく

極楽鳥花咲く畑の仮小屋で友と聞きたる日本のニュース

地の果てのシルクロードの旅の日をしみじみ思ふ杖持つ今は

 

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