14集1

著き日本語                     石瀬俊明

大利根の広き河原の秋空にエンジン響かす模型飛行機

利根川の流れに直に触れたくて背高き笹原かき分け進む

久方の秋晴れの空雲映し大利根川の水の豊けき

錯覚か一瞬水面きらめけり秋の日浴びて跳ぬる白魚

四万十川広き河原を横切りて赤きトラスの橋架かりたり

秋日さす稲田の彼方丘の上に半平太大人の生家見えたり

半平太の旧居は少し傾きて今もひそけく人の住みをり

瑞山武市至誠顕彰碑に書かれたり日本精神復興喚起之処

富の墓半平太の墓の脇にあり新しき生花供へありけり

阿里山の日の出を見むと登山電車に乗れば小暗く小さき車内

黙し居しタイヤル族の大刀自の貫禄豊かな姿懐かし

酋長に仕へる如き婦人等のふと口にせし著き日本語

 

 

 

幻と歌道                           王進益

ぼけたれば歌道の糸口つむぎ得ず幻に散らす吾を恥ぢらふ

ぼけたれば日人ならざる草生えしがらがら蛇のぬけ皮の我

主権は我等の手にと判じつつ裏潤滑油別に考へなむ

区別なく移動検診続く日に受くる幻今日の暮れゆく

二食分薬が飯より多しと思ふ大中小粒土砂と呑みこむ

医者(くすし)なる神業の指示良薬に在りたればだまさるるも結構

ともかくも飲んでからまた考えよう天井たれくる魔女幻か

一人居の床付き添ひの人不在緊急押せば午後二時がつくり

一流の隔離病室二週間太陽ひとつさみしき現代療法

自動ベッドうかららの電話差し入れの楽しみ身内の血潮湧き来る

詠草の水面に浮かび水蓮の青葉下留め美し姫影見ゆ

東ゆ陽の輝よへば尊としき水蓮観音権現するなり

 

 

 

浮き世潤ふ                     欧陽開代

賊軍の将の慶喜大往生扶桑なごやか浮世潤ふ

花はさきまた散るものと知りながらゆく春惜しむ世は儚しや

日台の交はり熱きロータリー兄弟のごと永遠に栄えを

西の菊東の鷲の英霊の沈める太平洋の竜宮永遠に

中国の初ノーベル賞劉暁波内に罪人外に英雄

開南の若きら禁止をものとせず台湾旗立つ我らの誇り

万里越え来たる竹馬の友と酔ひ歌ひ語らひ時を忘るる

七十日地獄に落ちしチリ坑夫無事救出に人等ほほえむ

硫黄島の楠公たりし栗林敵も心服英名永遠に

雨音のぽたりぽたりと惜しむごと命の貯金残り少なし

色付けば四方に愛でられ散りゆくも皆に惜しまれ紅葉うるはし

偶さかに過去の名花と巡り合ひ秋扇を惜しむ夏過ぎゆけば

 

 

 

バスは行くなり                    温西濱

年一度の同期会なれ車内には談笑満ちてバスは行くなり

思ひ出を友とたぐれば十余年もさながら昨日の如くに思ほゆ

久し振りに相語らへば少年日もどりて夜の更くるも知らず

日本のともの思ひ出なつかしく「同期の桜」を合唱するかな

去りし友みまかりし友の冥福を祈りてしばし黙祷捧ぐ

声高く校歌唱へば再びをもどらぬ青春恋ひわたるかな

老いたれど過ぎ来し若き日なつかしみて共に口ずさむ「蛍の光」

お互ひの顔の皺目立つ齢なれど学舎時の面影残りて

あひまみゆる又の日あるを祈りつつ二日におよぶ集ひを楽しむ

八十路越す同期会に「サヨナラ」は言はず「又会おう」が相言葉なり

ベランダに残飯撒けば雀らは人影に怖ぢけず無心についばむ

水槽の熱帯魚互ひに犯すことなく和やかに群れて泳ぎぬ

 

 

 

生くる喜び                         郭振純

あさぼらけ窓越しに聴く小鳥らの囀り廻る生くる喜び

並木道日増しに落葉積れども減らぬ暑さに風もそよがず

テレビより伝はる寒さに好きな人抱きしめて温めんせめて夢にでも

八十路坂半ばを過ぎて振り向けば映る足跡涙で消したし

奈落の底体験(かこ)を光に活かさんも闇の深さに光波及ばず

冤罪の打撃に狂ふ囚友に更なる(やまひ)なかれと願ふ

阿里山の気高に香る菊の花豚の蹄下に躙られ廃る

やるせなきむかつきに泣く胸の内声張り上げて地団駄を踏む

血流に乗りて求め得ぬ楽園を奇美は歌声の中に築けり

名にし負ふ奇美実業の歩みには思ひ遣りある文龍の舞

無垢の身の出征をいとほしと帯解きて肌に移せし温もり忘れじ

おもしろや我日本語を話したれば別人に見ゆると人は言ふなり

 

 

 

秋の夕暮れ                                       顔雲鴻

川の辺に白鷺一羽秋の日の落ちゆくときを寂しげに待つ

夕陽浴ぶる西空を赤き雲の占め仲秋は近くなりにけるかも

扇風機を未だ使ひをれば何時しかに仲秋過ぎしも秋の日知らず

朝風を切り行き飛ばすオートバイの涼しげなるに秋来ぬと知る

七里香漂ふところ尋ねゆけば白花まっ盛り地にこぼれゐる

知らぬ間に秋深くなり七里香乱れ咲きして路に散りをり

ラケットをさげてテニスに行く我は古稀の身なれどけふは幸せ

老いたれどボランティアに妻通ふ「この歳未だも勤むる幸」と

痛む足しのびて孫らにめしをたく老いたる妻はこごとこぼさず

沼尾花に霧のかかりて真んまるき赤き朝日が秋を呼びゐつ

逝きて早二十六年の母のスリッパけふ取り出してごみをはたたく

孫の靴亡母のスリッパ並べおきて時代を偲ぶ秋の夕暮れ

 

 

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