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13集7

偶詠                                       田上雅春

明け初めし聖代(みよ)(しるし)と寿咲く此の花の香床しも

今年また梅咲くなへに春は廻り常に変はらぬ季節を彩る

いさぎよく改むべきは改めて己が過ち悔いて戒む

覆水の元に戻らぬ哀れさよ怒り静めて十を数へな

過ぎし事是非に及ばす今ゆ後万の事に心配らむ

久方の天つ御空に照る月の和き光に癒されゆくも

己が非を不本意ながら認めざる訳にはゆかぬ事もあるかな

人々の心を和め神の道説きつ示しつ慎ましやかに

大自然神の姿ぞ真之即ち無言の教なりけり

月日のみ只徒に来経行きて五十路の坂も早半ば越ゆ

叔父われに諭して曰く綸言は汗の如しぞ木鶏たれとや

弥勒行神秘の謎を明かす也真中直替え斜めに下る

 

 

 

短歌入門                        舘量子

できるかな考えるよりまず詠もう嬉し恥ずかし短歌入門

初めての三十一文字に四苦八苦だけれど楽しい指折る時間

ベッドからぬけてはメモする五七五往復三回昨日の夜更かし

「新しい命授かりましたよ」と夢叶ったねママになるのね

あの恋が終わった私に爺優し「もう五十歳若ければなあ」と

物忘れ嘆く爺ちゃんそんなもの私はしょっちゅうだからおんなし

先達のお宅におじゃまし五七五泣いて笑って短歌と共に

「台湾のいもっ子」読んで涙する苦しめないでと叫ぶ思いに

高鉄できれいでしょと言う君の目に映る美麗島感じた誇り

「お座んな」台北桶屋の店先で手に汗握って見た大一番

ああ嬉したくさんの師に囲まれて短歌学べるなんて贅沢

腕磨き上達したらこう言おう台湾仕込よわたしの短歌

 

 

 

心はおどる                          趙寛寛

なつかしく台北にて聞きしラブソングはたちの時に歌ひし歌なり

手拍子に足拍子までもくははりて機上の音楽聞き明したり

お正月せいぞろいしたる子や孫の笑声絶へず食卓かこみて

敷きつめし黄金色の枯葉絨毯をゆっくり歩くお正月の朝

友くれし年賀状持ちていそいそと封を切る手のいともどかしく

しっかりと一日一日を踏みしめて明るく生きむ残されし日々

目醒むれば溢るるほどの太陽のねやの窓より一日始むる

二昼夜を歯の激痛に耐へて来て人間の無常今更に知る

穴倉のようにま暗き待合室医者を待ち居り耳そばたてて

つやつやと水もしたたるこの青葉吾にも欲しきやこの色の服

何もかも今までどほりの散歩道みちべの桃の木今年もたわわに

只今と声はりあげて呼んでみたしふるさとの空ふるさとの土に

どきどきと心はおどるアナウンスの台北近しの知らせ聞きてより

 

 

 

春の訪れ                        張國裕

瑞雪は高嶺を飾り春呼べば小鳥も歌ひ花もほほ笑む

海越ゆれば東風も嵐に春乱れ日々そそのかすパンダのテレビ

飼ひ犬に噛まれて知りぬ島人の野風にうずく心の痛み

気を付けよ不景気の波猛るとも経済を餌の数多の罠に

南風送る蓮華の香薄けれど汚れ清めよ人の心まで

幟り吹く風に爽やかな菖蒲荘旅人の夢今尚清し

夕涼み風も緑の島は今蝉の音清く政治醜し

背比べで孫に負けての嬉しさは疲れ忘れし台風仕末

ゆるやかに稲は黄金の穂波見せ秋めく小川心まで澄む

花薫る菊の節会を迎へども行事忘るる敬老の日を

月冴ゆるも高架の道に荒されて人影も無き圓山の夜半

冬晴れの温みがさそふ庭見れば花園も待つ春の訪れ

 

 

 

うつせみの夢                         陳皆竹

独立に異議を唱へて去りし人寂しからずやうつせみの夢

銅像は含み嗤ひして今も立つ梟雄戒厳三十八年

戦争を放棄せし国安らけく国の替りてミサイルに怯ゆ

ヒットラーはユダヤを屠り「蒋、毛」は廟堂に在りてはらから弑す

蔑視にもめげずに歩む日語族燭光見えたり敷島の道

古里の球団なれど「統一」の名は忌はしく今日も負けたり

なけなしの一張羅を着て失意せる親友保険の勧誘に来つ

坪庭の二尺の小屋に朝日射し犬はまろみてうららに眠る

野良犬のボスは体格頭脳よし家の仔郎党あまた随へり

そんなこと言ったおぼえはない筈を取材の記事を記者は美化せり

鬱憤の捌け口見たり「政治詠」怨みつらみは老いらくの方便(たづき)

安逸に骨抜きされて麻痺の民真綿で首を統一に引っ張らる

 

 

 

胸熱くなる                          陳秀鳳

咲けば散る自然の摂理もはらはらと散りし桜に胸熱くなる

夫の夢「桜前線台湾から」何時かは叶ふ開花宣言

旅のみち箱根の木々は雪化粧冨士も雲間にくっきり顕る

一人なら無理な坂道金剛寺旅友につれられ一気に登る

靖国で声高らかに「海行かば」唄ふ若人に偲ぶ杳き日

昨日春今朝は雪雲旅の空脱いだり着たりのにわかファッション

花吹雪桜じゅうたん踏み行けばうれしき中にあわれみさそう

長雨に倦きたる秋は足速やに真澄の空と共に去りゆく

歳月は経たれど孫の壁日記らくがきの跡今も鮮やか

荒れ果つる庭に今年も咲く桜知るや知らずや主人逝きしを

同窓会病む友も来てよく食べて楽しく語り笑顔あふるる

桜島のけむり眺むる朝食に今日一日の力みなぎる

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