偶詠 田上雅春
明け初めし聖代(みよ)の兆(しるし)と寿咲く此の花の香床しも
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今年また梅咲くなへに春は廻り常に変はらぬ季節を彩る
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いさぎよく改むべきは改めて己が過ち悔いて戒む
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覆水の元に戻らぬ哀れさよ怒り静めて十を数へな
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過ぎし事是非に及ばす今ゆ後万の事に心配らむ
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久方の天つ御空に照る月の和き光に癒されゆくも
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己が非を不本意ながら認めざる訳にはゆかぬ事もあるかな
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人々の心を和め神の道説きつ示しつ慎ましやかに
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大自然神の姿ぞ真之即ち無言の教なりけり
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月日のみ只徒に来経行きて五十路の坂も早半ば越ゆ
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叔父われに諭して曰く綸言は汗の如しぞ木鶏たれとや
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弥勒行神秘の謎を明かす也真中直替え斜めに下る
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短歌入門 舘量子
できるかな考えるよりまず詠もう嬉し恥ずかし短歌入門
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初めての三十一文字に四苦八苦だけれど楽しい指折る時間
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ベッドからぬけてはメモする五七五往復三回昨日の夜更かし
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「新しい命授かりましたよ」と夢叶ったねママになるのね
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あの恋が終わった私に爺優し「もう五十歳若ければなあ」と
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物忘れ嘆く爺ちゃんそんなもの私はしょっちゅうだからおんなし
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先達のお宅におじゃまし五七五泣いて笑って短歌と共に
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「台湾のいもっ子」読んで涙する苦しめないでと叫ぶ思いに
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高鉄できれいでしょと言う君の目に映る美麗島感じた誇り
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「お座んな」台北桶屋の店先で手に汗握って見た大一番
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ああ嬉したくさんの師に囲まれて短歌学べるなんて贅沢
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腕磨き上達したらこう言おう台湾仕込よわたしの短歌
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心はおどる 趙寛寛
なつかしく台北にて聞きしラブソングはたちの時に歌ひし歌なり
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手拍子に足拍子までもくははりて機上の音楽聞き明したり
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お正月せいぞろいしたる子や孫の笑声絶へず食卓かこみて
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敷きつめし黄金色の枯葉絨毯をゆっくり歩くお正月の朝
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友くれし年賀状持ちていそいそと封を切る手のいともどかしく
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しっかりと一日一日を踏みしめて明るく生きむ残されし日々
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目醒むれば溢るるほどの太陽のねやの窓より一日始むる
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二昼夜を歯の激痛に耐へて来て人間の無常今更に知る
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穴倉のようにま暗き待合室医者を待ち居り耳そばたてて
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つやつやと水もしたたるこの青葉吾にも欲しきやこの色の服
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何もかも今までどほりの散歩道みちべの桃の木今年もたわわに
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只今と声はりあげて呼んでみたしふるさとの空ふるさとの土に
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どきどきと心はおどるアナウンスの台北近しの知らせ聞きてより
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春の訪れ 張國裕
瑞雪は高嶺を飾り春呼べば小鳥も歌ひ花もほほ笑む
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海越ゆれば東風も嵐に春乱れ日々そそのかすパンダのテレビ
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飼ひ犬に噛まれて知りぬ島人の野風にうずく心の痛み
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気を付けよ不景気の波猛るとも経済を餌の数多の罠に
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南風送る蓮華の香薄けれど汚れ清めよ人の心まで
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幟り吹く風に爽やかな菖蒲荘旅人の夢今尚清し
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夕涼み風も緑の島は今蝉の音清く政治醜し
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背比べで孫に負けての嬉しさは疲れ忘れし台風仕末
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ゆるやかに稲は黄金の穂波見せ秋めく小川心まで澄む
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花薫る菊の節会を迎へども行事忘るる敬老の日を
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月冴ゆるも高架の道に荒されて人影も無き圓山の夜半
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冬晴れの温みがさそふ庭見れば花園も待つ春の訪れ
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うつせみの夢 陳皆竹
独立に異議を唱へて去りし人寂しからずやうつせみの夢
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銅像は含み嗤ひして今も立つ梟雄戒厳三十八年
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戦争を放棄せし国安らけく国の替りてミサイルに怯ゆ
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ヒットラーはユダヤを屠り「蒋、毛」は廟堂に在りてはらから弑す
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蔑視にもめげずに歩む日語族燭光見えたり敷島の道
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古里の球団なれど「統一」の名は忌はしく今日も負けたり
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なけなしの一張羅を着て失意せる親友保険の勧誘に来つ
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坪庭の二尺の小屋に朝日射し犬はまろみてうららに眠る
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野良犬のボスは体格頭脳よし家の仔郎党あまた随へり
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そんなこと言ったおぼえはない筈を取材の記事を記者は美化せり
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鬱憤の捌け口見たり「政治詠」怨みつらみは老いらくの方便(たづき)
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安逸に骨抜きされて麻痺の民真綿で首を統一に引っ張らる
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胸熱くなる 陳秀鳳
咲けば散る自然の摂理もはらはらと散りし桜に胸熱くなる
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夫の夢「桜前線台湾から」何時かは叶ふ開花宣言
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旅のみち箱根の木々は雪化粧冨士も雲間にくっきり顕る
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一人なら無理な坂道金剛寺旅友につれられ一気に登る
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靖国で声高らかに「海行かば」唄ふ若人に偲ぶ杳き日
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昨日春今朝は雪雲旅の空脱いだり着たりのにわかファッション
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花吹雪桜じゅうたん踏み行けばうれしき中にあわれみさそう
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長雨に倦きたる秋は足速やに真澄の空と共に去りゆく
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歳月は経たれど孫の壁日記らくがきの跡今も鮮やか
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荒れ果つる庭に今年も咲く桜知るや知らずや主人逝きしを
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同窓会病む友も来てよく食べて楽しく語り笑顔あふるる
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桜島のけむり眺むる朝食に今日一日の力みなぎる
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