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13集9

同じ穴の狢                          鄭埌耀

大陸の狢と同じ穴に住む馬総統と小沢の鼻息憂ふ

勝負事始まるらしもジャンケンに幼なが一人紙のみを出す

八十五の現役と言はれ人知れぬ侘しさのあり今日出貨終ふ

病状など聴きやるべかりき癌の友ひそと北上ひそと逝きたり

夫々に死は厳しきを友の喪に「あいつも逝った」と気軽く言ふか

銀しやりと言ふ名の驕り炊き上げし飯の匂ふに顔を埋めり

此れはそも日本離れか塩断ちの妻につき合ひ味噌汁を抜く

何れかが介護の側に廻るかと見つもれば妻も思いてゐるらし

親と子をおきて捨てたる命かや陸軍墓地は悽愴一色

喨々と国の鎮めのラッパ鳴り捧ぐる銃に木洩れ陽させり

奥つ城の草を薙ぎ終へ息継ぎて風樹の嘆に暫しくれをり

畏みて聞き流したる教育勅語今し珠玉の句を詠み返す

 

 

 

花東紀行                           潘建祥

汐止で行く手を阻む道しるべ渋滞なれば窓外見物

山崩れを遠く眺むる土の色人と機械が動きゐるのみ

車にて雪山トンネル十五分蘭陽緑野疾駆する快

威儀備ふ慈済仏殿の銅瓦一枚万金立ちて屋根を看る

西陽照る緑の園に風光る肥えた粒粒の地元隼人瓜

蘇花を抜け連山潜りてタロコ着変らぬアーチ永久なるたたずまひ

持て成しの名残り焼き芋食べ放題膨らむ腹のバンドを弛む

訝しき地名「光復」に足運び七郎烈士の墓を遥拝す

せんだんの花咲く漁港潮騒にか弱き白髪波風に靡く

南指し道行く路標目に写り日本めく地名次から次へ

声高な呼び売り声で客を惹くシュガーアップルは釈迦の頭瘤

目の当り繁栄見する花東で威張りたくなり老いの胸を張る

 

 

 

長男の結婚                              潘達仁

わが家の独身貴族なくなりぬ待ちに待ちたる長男の結婚

大学出てより二十五年渇望の長男の結婚吾妻の笑顔よ

痛む足に結婚式場見回りぬ欠けたる物のありやなしやと

長男の教へ子五人カメラ持ち結婚式場隅なく撮りて

長兄の結婚なればと弟嫁二人のいそいそ何かと手伝ふ

長男と新婦の共に晩婚の結婚を祝ふ同窓に祖父あり

ハネムーン終へし長男と夕餉の卓家族の一人殖えてメデタシ

鍼灸の鍼さされつつ詠む短歌の浮びては消ゆ波の如くに

今朝の冷え足の痛みを募らせて野バラの満開目にも入らず

痛む足を休み休みに登る坂慰む如く蝶の寄りくる

咲き後れしつつじの花を惜しむらん蝶の番ひがまつはり去らず

久びさに太平山に登り来て並木の紅葉に圧倒されたり

 

 

 

いにしへの日は懐かしや                        傅仁鴻

いにしへの日は懐かしや戻る事ないがあの日の愛しさを知る

いにしへの日は懐かしや夕暮れに定まらず飛ぶこうもり見たり

いにしへの日は懐かしや幼子のわれは夕焼小焼け歌ひし

いにしへの日は懐かしや靴が鳴る歌を幼きわれは歌へり

いにしへの日は懐かしや田園を走る夜汽車の遠い汽笛を聞きし

いにしへの日は懐かしや朝夕に日本兵士の吹くラッパ聞きし

いにしへの日は懐かしや本当の空が見られたあの広い野原

いにしへの日は懐かしや靴音のリズムをききて神社に向ひし

いにしへの日は懐かしや溌剌と希望に燃えた日は若かりし

いにしへの日は懐かしや手をかざし丘で涯なき行方眺めり

いにしへの日は懐かしや涯しない野原でそろりそろりと歩きし

いにしへの日は懐かしや帰らざる人達思ひまなうら熱し

 

 

 

清しく生きむ                                   前田富子

今朝も亦輝き上る日にまみえ今日の一日を清しく生きむ

草むらにすだく虫の音秋深み供ふる献上米(こめ)の実り豊かに

ベランダに今朝も小鳥の訪ひくれて一首残して飛び去りにけり

もろもろの事の浮かびて眠れずに時計見通し朝の来にけり

リハビリの合間杖つき町に出ず人それぞれに夏の装ひ

年ゆきて海も山へも行けぬ身に窓を開くれば夏山となる

草むらにすだく虫の音聞きながら明日干す薬草ながめたのしく

梅雨上がり久に見せくるる夏空に静かに動く入道雲の

老い吾の一日のはじまり自己流をフルに使ひて体整ふ

はなれ住み会ふ日少なき弟に先に逝かれて涙の日日に

花火の日歌友集ひて賑やかに冬は甘酒アイスクリーム

骨折し天は二物をとりあげず我が生き甲斐の書く事は出来

 

 

 

青春の色                                         毛燕珠

水色は少女の色青は青春の色わたしも着た色

台湾の秋は着替への忙しさ照れば脱ぎ去り降れば着重ね

草原に手をつなぐ如川流れ果ては煙りて空へ消えゆく

音もなく窓にしたたる冬の雨もの思ひつつ眺めてゐたり

雨やみて落ち葉に虹のかかりたり光と露のわざ優雅なり

空青く波ゆるやかに風さやか釣竿持ちて笑ひ高らか

火の玉の如き夕陽を背に受けて銀の翼は靄の彼方に

望月の光落ち来てさざ波の天の川のごと輝きわたる

万雷の爆竹街に鳴りわたり家は団欒団子分け合ふ

綿雲の広がり外に空の旅内にテレビと手に旨酒を

気まぐれに夏日のごとき冬の日やミニスカートの街を横切る

あたふたと出かけてみれば鍵忘れ荷物は家に鍵はその中

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