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13集8

銀河のみやこ                         陳淑媛

常夏の島の連峰に降り積もる白皚皚の厚き雪化粧

嘗て無き厳しき寒波襲ふ夜娘の重ねくるるシルクの布団

ショウウィンドーのネクタイに目の届きしも贈りたし夫逝きて十八年

黒潮のうねる椰子の島丘の上に草食む牛の鈴の音ひびく

木洩れ陽に散りしく花びら踏みながら友と連れだち春を尋ねゆく

朽ち果てし家屋一面にブーゲンビリヤのさ緑の葉に紅深き花

春一番文旦の香に咽びつつ花びらの雨に打たるる身かな

紙魚ひそむ夫の忘れしパスポート送る宛てなき銀河のみやこ

過ぎゆきはなほなつかしく携へて棗もぎしは夫のふる里

紛れなき白を択びて茉莉花の咲くベランダに陽の燦さんと

栴檀の花咲き香るひとしきり卒業式の窓辺にふぶく

散りながらなほ舞ひ上がる栴檀の奮迅のごとき一陣の風に

 

 

 

冠状動脈心臓病状の経過                    陳珠璋

基金会天母小学訪問後目的果たせど疲れを覚ゆ

王幹事歩みよろめく我が身をばタクシーに乗せ急診に急ぐ

台大でICUに送られて一週間後に心臓手術

高医師の心導管と動脈の支架挿入の技術卓越

三日後に旧正月を迎えども不安の家族にすまない心地

十日たち普通病室に移り行き八日の後に退院帰宅

我が居間に救急設備混み入りてリハビリの日の長きを憂ふ

一日の四分の一マスクかけ酸素補ふ煩わしさよ

久し振り初の外出兄嫁の米寿のうたげ喜び分つ

宴会中二人の歌友の即興で祝ひの短歌を贈るいとしさ

主治医の意見受け容れ台南の心理劇会欠席残念

複診で検査よろしく酸素吸ひ三分の二に減らす嬉しさ

 

 

 

幸身に餘る                          陳瑞卿

荒れ狂ふ風雪にあがく国聞けば蓬莱に住む幸身に餘る

八十坂を前に曾祖母に昇格す青目曾女孫に逢ふ日楽しむ

乙女時医者の夢をば末の子が果し呉るるは先祖の加護か

年三回母の日正月バースデイと子らの「紅包」に利子付けて還す

母形見のはし布出でて手玉作り曾女孫にわが文化を教へむ

クラス会は雀の学校話題には五臓ボーリングに養身術なり

会ふ度に減るクラスメンバー昨年は二人先立ち二人癌のオペ

会の終わりに医者の来訪たちまちに診療室に早変るとは

捨てられし大谷わたり心して育ててもとの緑したたる

諸もろの苦労の記憶彼方へ去り今はしっかり幸福抱きしむ

天候の極端変化に継ぐ天災自然の威力に人類勝てず

兄弟とうそぶく対岸プレゼントは砂塵の嵐目口封じらる

 

 

 

日本の自然と文化                       陳清波

大淀川流れ変らぬ様見れば町の盛衰なんと想うべき

数知れぬ洗濯岩に鬼たちもその数知れぬ洗濯風情

不可解に神秘な自然重なれば鬼が出でます神話のお日本(くに)

懸崖の岩蔭鎮座鵜戸神宮神話の日本を見守りつづく

短歌詠みてロマン旅路の生涯はさぞかし本望なるや牧水

頭借り身は牧水の旅姿成りきって励む短歌詠む余生

台日の文化交流に台消えて東亜で迎ゆは馬の災い

親共馬諸民を乗せて突っ走る落つるその先ブラックホール

雛祭り童謡流るる町の売り場客呼ぶ娘らの笑顔が目立つ

身と心ともに故里あり台湾に生まれしあの日旗は日の丸

両親もはやあの世逝き寂しき日はひとり口遊む日本童謡

鳥取の砂丘の空に二重虹小雨に濡れてじつと眺むる

 

 

 

山かすむ日に                         鄭 静

ここのみは緑したたる山の端に白糸の滝さやかに流る

奥入瀬も冬にいたらば滝こほり雪にまみれし動物の姿

ほのぼのと山かすむ日になりにけり遠山彦のいとものどかに

ハンサムの物理の教師問ひつむればたぢろぎたるを笑む少女達

物理の師招きて謝するクラス会指輪ささぐれば涙こぼさる

電話にて同級会をせかせし親友思ひもよらず夜半に逝くとは

むらさきの友より賜びし傘させば在りし日の笑顔しきり顕ちくる

コアラ抱きカメラに笑まふ我を見て旅の友どちナイスと云ひぬ

バラ色に輝く小石ひろひ上げ夕日に頬笑む黄色海岸

「ひなの宿」海の記憶が山里の湯舟にひろごりみち溢れゐる

「美人林」夏は涼しく二人して森林浴も又すがすがし

娘と共に高鉄の旅にいでたれば赤とんぼ飛び秋はたけなは

 

 

 

雨降る中を                          鄭 昌

待ちわびし電話の声はあたたかく今日の一日幸せを呼ぶ

風立ちて奥萬大は霧の中夕日影さし虹のかかりて

若くしてこの世去りたる父上の齢の倍まで我は生きたし

咲きほこる白梅の花母ににて香ただよひ過ぎし日思ふ

またしても手術を受けし吾が娘痛さこらへて吾に微笑む

公園に吉野桜が咲いたよと吾娘は知らせぬ雨降る中を

むらさきのアヤメ花咲く池のほとりせせらぎの音春は近くに

灰色のくらき空より雨降りて野辺を追ひ越す高速の旅

君が手の温もりにふれ燃えて来る思ひを秘めて時は過ぎゆく

待たぬとも時刻刻と過ぎゆきてボッと眺むる一ひらの雲

ダイコンの白き花咲く畑田に蝶蝶舞ひ来て春は来れり

雨の中友どちと歩む田舎道土黒く濡れて郷愁そそる

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