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13集6

海外旅行                          曾昭烈

お互ひのささやき伝へる風が吹く耳を寄せ合ふコスモスの群

新婚の肩をより寄せ歩みゆく桜もしばし散るをためらふ

八十歳と言へばポツンと切られたり海外旅行の勧誘電話

ペット飼へぬアパート住まいでケイタイの画面の中でポチとたはむる

窓口に紐でつながるボールペン銀行だから誰も信じない

樹齢三千倒るる前の神木の記念葉書に摂られてゐたり

挨拶の文字も署名まで活字体賀状の切手のみ親しみのあり

蒔かざるに芽生えて実る金柑が観賞のあげく薬用となり

それぞれの批評の声に弾みあり第四日曜日短歌の集会

信号の青が押し出す人の群杖もつ一人を残して消ゆる

芳ばしき匂ひただよふ蒲焼の大き丼はみ出すばかり

高きより見下すカーの尾灯の列お盆休みのユータン始まる

 

 

 

六十とせの銹                         蘇楠栄

殺されも殺しもせずに生き延びし落人の我一九四七

北門の物見の衆に急掃射命拾ひし韋駄天我は

雨の夜のルーズベルト路石の道巡邏車に遭ひ氷背を走す

戒厳下ひと日通じし汽車に馳せ兇都脱出桃園目ざす

日軍の埋めたるといふ手榴弾唯一の武器と心して持つ

配られし手榴弾持て跳び入れば警官手を挙げ銃器庫開く

日本刀さげて下山せし酋長は抗戦無謀と出兵拒む

基隆と高雄に大軍上陸と報せのありて衆心揺らぐ

二二八の我は落人故き友と銃捨て難てに野をさまよひし

用なさず葬る銃よ腹いせに森に向ひて轟と一撃

乗せ呉れしトラックの上に銃構へ検査の站を不意に駈け抜く

敵ひとり屠らず埋めしゴムマントの中の火筒よ六十とせの銹

 

 

 

大和巡り                         蘇友銘

沖縄の「守礼の門」を仰ぎ見て姫百合の塔に涙の詣で

阿蘇五岳に地獄温泉フグ料理荒城の月に昔を偲ぶ

幸運児飛行機からの冨士を見るラッキーの始まり東京出張

丸の内昼はビジネス夜は銀座仕事付き合ひ大事にして

山手線は東京巡りに丁度良し上野銀座と乗り継ぎてゆく

轟ごうと怒り狂へる鬼怒川の温泉旅行思い出尽きず

三猿の見ざる言はざる聞かざるを孫らと真似て楽しみにけり

鎌倉の長谷の大仏は露座のまま津波に耐えて大和を守る

法興寺の飛鳥大仏に石舞台蘇我の古墳は明日香に残り

雪祭子供にかへりて滑り台カプセルホテルは満更でもなし

大雪山層雲峡の滝凍てて魚が顔出し我らを迎ふ

網走でオホーツク海を目の前に雪靴脱ぎて海の幸食む

 

 

 

春の水前寺                          曹永一

水前寺小さな店で九十の媼と投合立ち去り難し

団員が恩師と再会水前寺二人手を取り涙を流す

八通関道遥かなり頂に一面のコスモス野原を彩る

目覚めても鮮明に残る夢なりきああ年取りて夜の長きかな

不器用で嫁に敷かれる長男よ親亡き後は如何に生きるらむ

朝青龍乱暴するとはうつけ者蒙古のイメージ台無しにする

若き日に玉山富士を制覇すも強き足腰今は何処に

ボルボすら売られゆくなり恐るべき共産チャイナ世界を制覇す

台湾の運命すでに極まれりじたばたしても詮無きと知れ

夫婦でもいつかは一人先に逝く人生無情あきらめるべし

わが部屋に坐り心地良き椅子のあり愛読書あり日々是好日

ベッドより飛び起き夢の句を記す只それだけで風邪引く八十路

 

 

 

全校同窓会                         荘淑貞

小学の全校同窓会開きしも参加せし人幾人もなく

本世紀隔てた初の同窓会名札と顔を見交し居たり

三姉妹二百超えたる同窓会老の我等は童に帰り

小学の友と再会の同窓会銀髪揃いの爺さん婆さん

長年を逢はざる友の名呼びだせず暫し佇み名札見詰むる

白髪の同学集ふ同窓会校舎の一角まで話題溢れり

小学の日々通学の細き道全てが変わり商店並ぶ

半世紀集う同学の同窓会小さきプールもなべて懐かし

過ぎし日は皆懐かしき思い出よ同窓会は姉妹と道づれ

春来れば集ふ同窓会この後はあと幾度か老いたる我らの

われ一人同窓会の余興に「人生情ヶ舟」の演歌唄へり

我が友は西に東に別れ行く逢えば別るる定め悲しき

 

 

 

桜の通り抜け                         荘進源

穀雨降る造幣局に傘さして長蛇の列は桜の下行く

桜花の歓呼受くる如人々は桜トンネルを通り抜け居り

吾が庭に咲く桜花凛としてトンネル作り頭上げさす

美女桜爛漫として艶競ふ色と匂ひの桜の通り抜け

傘さして桜トンネルヒロインは雨露光る紅手鞠かも

海に向かふ和倉温泉のホテル群漁火の如波にキラキラ

和倉温泉潮の香匂ふ渡月橋遊子の詩情滾々と湧き来

台湾の媽祖への寄進海渡り支那でホテルに変り果てたり

厠とは昔の便所暗き感じ今はバストイレリラックスムード

寒き夜犬が書斎に入り来て足元にそつとうづくまり寝る

春日和窓より見ゆる山麓のカポック並木は一幅の壁画

加賀屋にて百万石の大名の接待受けて気分爽やか

 

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