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13集5

暦の数字                                   佐藤厚子

戴きし賀状の虎は笑顔にて米寿の我に似たる面差し

米寿とは己の歳と知りし時軽く受け止む暦の数字

「本当に私ですか米寿とは」云われてみればそんな気もする

米寿など言葉の綾と帰省せし娘にバイクの相乗りねだる

後座より娘に抱きつく老母ありてバイクは少し速度をおとす

十歳を鯖よみをして嘯けり罪にならざる老いの戯れ

定期預金更新すれば係員が大丈夫かと云ふ表情見する

ピカピカの革靴履くを拒みたり昔言葉の運動靴よろし

デジカメで孫の写せし一枚を遺影にせむと額に収むる

弱音など吐かぬつもりが外国の娘よりの電話に本音を漏らす

粗菜にて一人手酌の晩酌は詫びを酔はせて老いも酔ひたり

愚痴ることそれさへ忘れ突っ張って娑婆に一席せしめてゐたり

 

 

 

 

煌きわたる                                 周福南

満ち満つる天つ香りを放ちては煌めきわたる二つ星かな

山笑ひ桜によへり往来の人は游げる魚たちのごと

静静と春雨続く時来たり種蒔く人の喜びを思ふ

夜の雨に春雷響き啓蟄の田畑潤す豊の年とぞ

あでやかに満開の桜揺れゐたり肥後の古城の歳月を詠む

旅疲れ癒す出で湯の森深しありがたきかな自然の恵み

無私の愛百万人の手と心緑はためき逆転勝利へ

一枚の賀状に古き友の文字思ひはるかに元日の朝

大晦日百八の鐘響きたり心冴え冴え新年迎ふ

松の木を自在にりすの飛び渡る園の歩みも孫は嬉しげ

晴れ渡る奥萬大の若槭紅葉と青葉を彩る

暖かき今年の冬におどろきて梅もはや咲く春の訪れ

 

 

憶吾子                                       徐奇芬

夜もすがら降り続く雨にいね難く空を仰げば果てなき暗闇

頬つきて坐りし吾子を顕たしめて椅子に坐ればつくづく悲し

揺れ止まぬ心を如何に静ませむ亡子を泣く嫁の涙拭きつつ

夢の中亡き子の笑顔明るくて己に世になき事実肯へず

ゆるゆると流るる雲に見とれ居て何時しか吾子に思ひ馳せゆく

逝きし子をひたすら憶ふ雨の夜を窓辺に来鳴く名の知らぬ虫

仰ぎ見る夜空に一際きらめける星の一つは逝きにし吾子か

亡き父母の後を守りし吾子逝きてわが故郷はいよよ遠しも

吾子逝きてはや周年と気づく朝名の知らぬ鳥屋根を飛び立つ

かすかなる音立てて過ぐる夕風に言葉少なき亡子の偲ばるる

眠らむと灯を消したれば逝きし子の眠るが如き遺容顕ち来る

何時の日か我も死ぬとは知りつつも先立ちし子を思へばかなしき

 

 

ハイビスカス                                 徐奇璧

久々に吾娘帰り来て胸温む何もしてやれぬ老い母となり

どんよりと小雨降る午後客を待つタクシー数ふ窓辺に佇ちて

今朝摘みし茉莉の花のひめやかに匂ふわが部屋充ち足りて眠る

やはらかき夜具にくるまり何時しかに眠れば痛み孤独も知らず

山林に住むわが願ひ叶はねば日日の噪音と塵に苦しむ

光なき空にも似たるわが心歌詠めずはや締め切り迫る

芽ばへたる芋を丼に水させば緑葉ふえてあかず眺むる

アメリカゆ帰り来し娘ら台湾は住み良き所と喜喜として言ふ

吾娘去りて今はどのあたり飛び居むと淋しさ怺へ平安祈る

咲けよ咲けハイビスカスの赤き花風にゆれつつ光の中に

仕合せにありて欲なく望みなく老化の日日を虚ろに過ごす

気張らずに老いを肯ひ「バーサン」と呼ばるる声をうれしく聞かむ

 

 

 

 

乳牛の子                                     徐誠欣

牧場の乳牛の子が乳のみに前脚折りてひざまつく見ゆ

曇る日の野原涼しや彼岸へと渡る小川の春水ぬるし

なつの朝くつくくつくと伴を呼ぶやま鳩の声村さびしからず

小中学義務教育は良き制度子供育ちて文盲のなし

現今の科学技術の新世代新案取れば勝利者となり

里思ひ電子園地を新竹に大規模に施かれ世に名を揚げる

初生なるどの動物も愛らしく見る人びとの愛を集むる

咲く花は色と香で愛さるる樹齢ある盆栽その値なし

年老ふも壮健なれば生死など運命まかせ明るく生きむ

まち広場えさとりまわる鳩の群杖持ち歩く吾に恐れて飛ぶ

優等の成績表と校長奨を爺に我に見せる孫の笑顔かな

人住まぬ隣の家は閉ざされて季に花咲きて美くし見ゆや

 

 

移民                                         辛秀蓮

ふるさとを逃れて異国に移り住む半世紀前の白色台湾

アメリカの自由民主にあこがれて万難排し大志いだき行く

学位とり語学に職業備はらば移民申請手っ取り早し

アメリカは若き世代の天国よ独立志向に言論の自由

多元化なる人種の移民国にして文化に膚色暮らしも様ざま

はらからの老若次つぎ渡米せり夫と居残り祖先の墓守る

華僑とふ中国移民に台湾籍政争の縺れ茶飯事なりし

クリスマスに集ふはらから各州より家族を乗せて遠き道程を

大国にも栄枯盛衰歳月も人を待たずの流転のありて

総統馬氏一族なべてアメリカ籍東海岸の豪宅貴族に

傾中の馬氏政権に危機感を流浪の宿命又もや移民潮

ふるさとを遠くにありて思ふ民四百年経りし悲哀の過客

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