さくら、さくら 黄教子
ふるさとの国のさくらを見たしとふ思ひつのりて帰り来たりぬ
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「いつにても帰っておいで」と兄のメール父母亡き後も帰る場所あり
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はるばると来つるものかは東御園天城さくらの香の下に佇つ
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咲き盛る天城さくらをただ見上ぐ花の香りに身は包まれて
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千鳥が淵染むる桜の花霞時空を超えて探しゆく影
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花の下眠るがごとく死ぬもよしさくらさくらの花の海ゆく
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靖国のさくらは御霊の集ひとも思へて青き空を見上げぬ
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靖国の御霊の夢を見ると言ひし鄭春河氏の偲ばるるかな
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清浄の自刃現場の碑(いしぶみ)にかなしきいのちの積み重ね見つ
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父君を語りさくらの下に佇つ半世紀経しわれらの絆
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ひととびに四十数年スリップし吟詩部の友ら集ひくれたり
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ちちははの奥津城に散るさくら花ともに見し日の幻とともに
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太陽西より昇る 黄培根
ECFAは何事や老いも若者も誰もが知らず神様が知る
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馬政府二年になるも悪政で四面楚歌にて民心得られず
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国名なく国際地位もなきこの島未だに彷徨う亜細亜の孤児よ
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生活の不安絶えざる乱れ世に奇しくも太陽西より昇る
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日々募る馬政権のよろめきに台湾維新の舞台迫り来
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終戦時生まれし子らは何時の間に老人チームの会員となりぬ
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昨日の敵今日の友なるも明日は又他人功利の社会険しき
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五人の子育てし老妻の丸き背と増えゆく皺も功の輝き
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横綱なき大和力士よまたも負け伝統の国技斜陽の証し
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今日なくば無論明日もなきこの浮世無欲に健康快適の日々
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この島に生を享けしにそを認めぬ族群ありて悲憤の極み
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物豊か緑溢るる常夏のいとしわが母その名タイワン
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生を楽しむ 蔡永興
幾重にも連なる雲の綿雲の真白に我の憂ひ消えゆく
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朝日影さして窓辺に花開き小鳥さへずる生を楽しむ
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過ぎし日の端午に母の作りたるチマキの味と香は二つなし
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程もなく民主も消えむマの手にて台湾人よまだ気付かぬか
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芋っ子は井ならぬ鍋のかはづなり早く飛び出よさらずば死なむ
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手をとりて歩む姿の睦まじく友等の愛は千代に八千代に
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売られても団結出来ぬ台湾の悲哀いつまで天よ導け
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人の手に頼らず暮す幸せは神の恵みと感謝ひとしほ
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失ひし子をいかばかり思ふらむ妻耐へゆくは神のご加護か
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我が母に尽くし足りぬと悔い消えずこの期となりて何をなすべき
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鳥鳴きて窓辺花咲く部屋のうちクラシックの音満ちて楽園
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ポッツリと姿を見せておはやうと皆に挨拶観音の山
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古都四百年 蔡紅玉
紅の鳳凰花咲く古都の夏吾が里京都に似たりと言はる
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オランダの安平占拠ゼーランジャ城は四百年の歴史を語る
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鄭成功手植えの梅が花つけり延平郡祠に故事の纏る
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明の復起謀りて渡台の寧靖王関帝廟裏に故居の跡残す
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主を追ひし五妃の殉死の痛ましく合祠の廟に涙さそはる
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明に勝ちし清は安平の億載に砲台据えて城砦築く
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市内まで延びゐる運河にさざ波が夕陽にキラキラ輝きてゐる
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儼然とゴシック建築の州庁は町に懐かしき日本の遺産
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雨降らぬ南部の冬は暖かく柑橘青菜市場に溢る
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四草橋越ゆれば湿地の国家公園渡り鳥鷺の自然保護区なり
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百年の伝統の味覚軽食の魅力に人等古里恋ふる
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馴れにたる町のすみずみ古里の温さは母の愛にも似たる
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外つ国の歌に 蔡焜燦
幼な日に友と歌ひし「こひのぼり」時は流れて外つ国の歌に
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年かさね友の涙のもろきかな悲しき報せ咽び伝ふる
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蓬莱のわが同胞(はらから)よ国民よ自力で戦へ子孫のために
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庚寅の年の初めに念ずるは子等よひるむな悪の国支那に
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蓬莱は麗しの島と言はるれど石投げ込まれ馬狂ひ騒ぐ
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年男今年の計を定めたり祖国(おや)に贈るは馬を咬むこと
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久方にさへずる小鳥の声を聞き国護る心新たに萌え出づ
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美しき太平洋に添ひ並ぶ日南街道訪ひしわが友
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九州に茶所ありと友の言ふ嬉野 八女茶 知覧 都城
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フェニックス並ぶ日の本宮崎の海は麗し山も麗し
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さつき晴れ久方ぶりに「初夏の歌」口ずさみつつふるさと憶ふ
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蓬莱は春秋分かたぬ島なりやさくらに尾花百花繚乱
我が家の末っ子ヘンリ 蔡佩香
靴箱に入りて我が家に来し子犬ヘンリは友のプレゼントなる
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ミルク飲み好く育ちたるヘンリ常に籠より逃げ出しやたらと小便
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床の掃除へンリを風呂に公園へ散歩運動と吾は暇なし
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中型犬に育ちしヘンリ立て坐れ伏せ握手左右を間違がはず
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帰宅せし家人各自のスリッパを違はず選び銜はへ来るなり
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「公園へ散歩に行くよ」と言へばすぐベルト鎖を銜はへて尾を振る
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ヘンリ連れ散歩に出れば人びとは「綺麗な犬だ」とほめくるるなり
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ハモニカを娘が吹けば首伸ばしウウーと声出し歌唄ふなり
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ペット美容の店へ行く時ヘンリ何時もタクシーに乗りて行きたがるなる
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足の手術受け帰宅せし吾をヘンリ家の五階より駈け降り迎ふ
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ギプス嵌めし吾を訝りて労はるがにぐるぐる廻り吾が足舐める
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家族らの愛を一身に幸せに逝きしヘンリにこの歌記す
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