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13集3

人生の一時                        江槐邨

世の乱れ憂ひ真善美に唱ふ「台湾歌壇」萎む心に明り灯せり

満開の吉野桜を淡水の山辺に賞でむ人込の中

屋上に白く咲き満つレモンの花馥郁たる香に蜂の群来る

卓上の鏡に訝り家の猫じっと見つめて手先で掻きをり

外孫は海の彼方に嫁尚ほ音沙汰無く空しき時は鸚鵡と喋りぬ

雨風や旱に強き野の芒健気に生きぬく台湾の姿

生涯を捧げんとする会社倒れ社員の貰ふ涙金かな

澄み渡る大空見つめ「日本晴」と教はる彼の目も七十路の昔

さらさらと流るる里の清き流れ游ぐ小鮒の今もあるかと

目を瞑り一人微笑む向ひの娘楽しき思ひに耽るバスの中

白百合の苗を送りて難友と偲ぶ過ぎ行きし緑島の辛き数々

臆病の吾家の子猫湯沸かしの吹く笛の音に驚き逃ぐる

 

 

 

遠き子ら思ふ                       高淑慎

洗濯機に帰省子の夜具を入れにつつ団欒の日々を反芻し居り

前後して帰省せる子らの好物を求めて夫はぺタル踏みゆく

久に会ふ兄妹二人の弾む声笑ひの声が近所につつぬけ

塀越しに吾娘の名呼ぶはお隣の長女ならむか久に声聞く

そが母の墓参に帰省の三姉妹吾娘を連れゆき歓声上ぐる

ゆくりなく幼馴じみと再会の喜悦を面に吾娘戻り来ぬ

澎湖への墓参帰郷に吾娘連れて親子の旅の何時またあらむ

幾日の華やぎ家にもたらして娘はアメリカに帰り行きたり

台中へ宜蘭へと子は大学の友に誘はれスケジュール多し

「氷島」の火山噴火に足留の子もベルギーに無事に着きたり

干し上げしシーツの角が一センチずれて気になりつと直し来る

客用の大皿小皿出盡して片付けにつつ遠き子ら思ふ

 

 

 

明け放す窓辺                       高寶雪

うつむきて杖先で何か書いてをる老人ひとり朝のバス停で

隣席の広げて見入る旅行びら失礼と知りつつぬすみ読みする

明け放す窓辺に匂ふ胡蝶蘭うす紫に心の和む

店員の言葉たくみにのせられて買ひたるドレス箪笥にねむる

ワルツの曲踊りたる日の杳のきて痛む足をばさする梅雨の日

椅子の下に落ちしコートを拾ひ呉れし若き青年人波に消ゆ

わが命振り子の如くゆれながら登りて行かん八十路の坂を

愛するは生くる歓びと唄ひゐる歌手吾が胸の孤独を知らず

休日の朝市あまた並びゐて笑顔交はせる老夫婦目につく

供へ物両手に抱へ墓園入る秋風吹きて夫の二週忌

逝く年の五彩の花火華やぐもわが胸内は遥か傷心の色

誰を待つ電話や日びの寂しさに籠りてゐれば風鈴の鳴る

 

 

 

並木道の田園風景                    黄華浥

一度見し田園風景この村に憧れ妻子連れ移り来し

村入れば黄金の稲穂波打ちて大正の世に早や緑化をなして

緑なす山並み仰ぎそよそよと風吹く村は実にオアシスぞ

決然と妻子を連れて素朴なる田園の地の村に根着きぬ

並木道緑したたるその下を歩めば顕ち来戦前の世の

村の道真直ぐに行けば角板山タイヤル娘の杵打つ夕暮れ

発展の美名に道は拓かれて何時しか消えし村の並木道

並木道田園風景早や消えてアスファルト路に車飛び交ふ

騒がしき無情の都ふり棄てて静けき村に住みて幾年ぞ

春四月桜並木をテレビにて見れば偲ばる村の並木道

並木道延々五キロこの村を日本人よくぞ緑化しくれて

夢なるか並木の道の両側に稲田の穂波囁くごとし

 

 

 

リス・ハト・スズメ                  黄昆堅

秋のリス樹樹跳び回りヒクヒクと鼻動かして冬の餌探す

春のリス埋めたる餌を掘り出して口モグモグと頬膨らます

剥き出しの二つの前歯栗の実をガツガツ食ぶるリスに見惚れり

後足で地にしゃがみ込み糧を手に周りを見張るナーバスなリス

ふくらみししっぽ振りつつ電線をす速く渡るリスの曲芸

籠のリス金物毬をかけ回し独り愉しむ様のいとほしき

雌鳩の傍でしきりにクッククーと愛を求むる雄々しき雄鳩

飼ひ馴れし対の雌鴿を手に抱けば多情な雄鴿肩に舞ひ来る

式終へて幾百のハト一斉に羽ばたき飛びぬ平和目指して

人なつこき丸き目の鴿ハト胸で空を翔けるも「我が家」は忘れず

競合に参加せし鴿海や山越へて何百里遂に帰巣せり

二、三羽の雀の囀り耳によし大群とあらば騒音となりて

 

 

 

幼き日                        黄女辛花

花蓮港花岡山の運動場に露草つみて戯れし日日

幼き日男の子と共に花束を共に作りし教える小女

ネムの花垣根の側に咲き居るを摘みて遊びしあどけなき日日よ

幼くも運動場の隅に咲く百合の花には手をばふれざり

浜木綿の咲く浜でての石遊び帰りに下駄を忘れて帰り

後より下駄をくはえて坂登る頭をなでてほめてあげたり

大人らは小犬と遊ぶ幼ならを笑顔で見守りくれし杳き日

鳳凰木の花拾ひ合い二人して遊びし頃の無心なつかしき

むくげ喰ふ牛がこはくて近よれず花をあきらめ家に帰りき

せんだんの赤と青との實をまぜて転がし遊ぶ幼き二人

幼稚園に上りし頃は男女別遊びも変り別別になり

今居ればもう傘寿ですお友達元気で居るの居ります様に

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