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13集2

良き塩梅に                         顔雲鴻

老ひて学ぶハーモニカの音と童の唄幼な友らと子供に戻る

何事も思ふことなく西空を眺めてゐたり冬の夕暮れ

幾度と電話をすれど応へなき友は恙無きかと憂ひゐたり

蓮の上の露の汚れに染まざるは人らの学ぶことなりと思ふ

孫達の留守の部屋内覗きみれば着物に玩具ばらばら散りて

手の早き二歳の孫は片時を眼をはなせばすぐ物音立つる

仔兎を孫女は両手で抱きかかへかはいいと皆に見せて居るなり

東方大学に招かれ学生らと唄へるは桃太郎の唄赤蜻蛉の唄

三か年漬けたる梅瓶開けたれば香鼻つく良き塩梅に

りす貰ひしと聞きて戻れば籠中で人を見ながらざくろ噛みをり

仿山の暗き水田に蛙らの頻り鳴く声なぜか悲しき

消防のボランティア達に出す料理妻早起きしてすしを作れり

 

 

 

友                             北嶋和子

先見えぬ不安の日々も感謝なり励ましあまた胸に刻みて

受話器より間近き声の聞こえ来て国際電話の会話弾めり

モザイクの十字架ばかり作れると友は言ひをりその母逝きて

朽ちゆける日本家屋にひそと咲く紅き桜のいともいとほし

そのそばで歌へば枯るるという山椒家人なきになぜに朽ちたる

八年間追ひ続けたる夢叶ひ娘は古巣より遠き都へ

をちこちに散り住める子等思ひつつ天気予報を見るに忙し

親孝行出来る間にとは思へども母の喜び測りかねつる

今しがた散りて来たるか桐の花拾へば淡き香を漂はせて

身の丈を半ば隠せるリュック負ひとことこ歩む女児愛らしき

再放送同じ場面に涙する我は純情はた単細胞

頭ひねり言葉選びて字数読む青息の我歌作り

  

 

 

八十路                        胡月嬌

八十路の身心の傷を舐りつつ短歌の集ひが吾が慰めぞ

八十路の身よくぞ越え来し幾山河待つ人あれば安らぎ逝かな

耐えること多きこの世にくぐまれる背伸しのばし唯生くるのみ

打ち水に裏庭涼しく夕暮れてお風呂を終へてほつと一息

吾なりの一度限りの浮世道最後は笑ひて逝かせ給へかし

じんと来る身の上話汝が苦労嫁は哀れも自殺すれすれの

茜雲幸一ぱいの晩年を君過せかし償いはれての

八十路の身衰へ著き日々なれば老いいたはりてほどほど怠る

汝紫苑うす紫のゆかしさよ遠き学舎忘れじの花

校友会車椅子の人杖の人老い著し吾もその一人

現世報見て来し吾は唯祈る仏の慈悲の遍くあれと

露の如とばかなき一生母なれば真向きに残す子らへの愛を

 

 

 

若き日恋し                        呉炎根 

良民がうゑてゐるのに悪人は民の税金でやしなはれるとは

国内の失業率のかく高きになぜまた外労が必要なのか

人権は誰のものなのか被害者の人権は誰が守ってくれる

大学生博士がまちにあふれても政治意識は未開民なみ

親たちの意識なきまま親になる生まるる赤子こそあはれなり

赤子とはさずかりものかすてものか祝福されぬ命こそあはれ

不出来なる子ほど可愛いやるせなき親心を子は知るや知らずや

幼な児の手より風せんが空へ飛ぶ泣く子追ふ親夕陽は知らぬ顔

まずしくて何もなけれど逢ふだけでしあはせだった若き日恋し

若者のあわれみの目をみかへしたり我には汝になきよき青春ありしと

ひさびさに鏡のぞけば見もしらぬ老女のわびしき顔そこにあり

懸命に座の雰囲気をもり上げる嫁のあかるさうらやましかり

 

 

 

老いの寂寞                        呉順江 

ひらひらと落つる枯葉にひしひしと身に伝ひ来る老いの寂寞

もの思ふ小夜のしじまに亡き姪のさびしき笑顔浮びて消えず

グランドに技を競ひし旧友の訃報を聞きてわれ憮然たり

世を怨み人を恨みて去り逝きし友の歌集をしみじみと読む

口ずさむ昔歌ひし「ラ・スパニョラ」二度と還らぬ青春偲びつつ

しづまれる深山の森に鳴く鳥の諸行無常と告げゐて空し

夏の夜の夢に浮びし若き日の淡き思ひ出走馬灯のごと

街灯の光りを映す水溜り老いたるわれの影がよろめく

胸濡らす波のしぶきに杳き日の夢の数かず寄せては返す

新芽より若葉となりて紅葉に変る人生落ち葉をば待つ

吾がいのち八十路にてよし足るを知り神の恵みを更に求めじ

人の世にいのちを享けし幸せを惜しみて生きむ残れる日々を

 

 

 

虎年                            呉戀雲

良き先生歌壇の友に導かれ短歌詠み来て八十二迎ふ

短歌詠めば心豊かに老い友とともに学びて日々を楽しむ

虎年の花火祭りに事故が起き新年早々おだやかならず

台湾の古代の伝へ虎年生まれの人は祝宴に歓迎されず

虎年に台湾の美をさがしたれば豊富な食物世界一なり

古き日のアルバム開くれば薄れたる記憶が浮びうれしさに満つ

春雨の降る冷たき日寂しさに友と電話で四方小話

大地震洪水ひでりにおどろきて地球の暖化を人々は憂ふ

病む膝を引きて老い友集まりて傘寿祝いに時を忘るる

市場にて食べほうだいでよみがへる物資缺乏の戦時のときを

墓参りに孫医学院に入学を夫に知らせて心ぬくもる

新年を祝ふ折鶴百個を孫送り来たるを宝となさむ

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