水は答えを知っている 游細幼
しぐれ降る静けき夕べ友賜びし「水の結晶」の書ひらきて読む
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水の伝言水の妖精に導かれ眼を光らせて読みゐる夕べ
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水凍らせ結晶の写真のユニークさ思はず興味津々と見る
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「水は答えを知っている」書は数多く我らの知らぬ世界を諭せり
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一粒の水の結晶の大自然の奇しき幻想に思ひ溢るる
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顕微鏡にていと端正なる六角形の結晶は花の如く美しき
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過酷なる環境に水の結晶の奇しき世界に驚きにけり
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二百倍の顕微鏡にて現はれり五十個の水の結晶写真見つ
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奇妙なる水の結晶に幼き日の万華鏡見し記憶よみがへる
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水の結晶写真見てより誰しもが不思議なる美に心魅かるる
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結晶が形成されてより僅か二分間にて水に消え戻る
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人生のドラマを演ずる束の間の結晶の水の生涯が終る
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ただになつかし 姚望林
亡き友のくれし手紙を読み返しまた読み返すただになつかし
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よちよちと空缶手に持ち塵箱に捨つる幼子親の仕付けか
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台風去り胸まで浸る洪水を自転車引きて帰路にさ迷ふ(八七水災)
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二階より筏流しに籠下ろし朝食吊り上ぐ洪水の朝
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立秋すぎ山の彼方の入道ぐも誘はるるごとく杖つき登る
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秋されど残暑きびしき昼さがり芭蕉のかげで猫が寝そべる
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五峯瀧ゴルフ打ちつつ見はるかす緑の奥に白きかがやき
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友とみに少なくなりゆく八十路われ耳遠くして孤独の夕べ
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言葉こそ厳しけれども愛のある父の諭しを子らに教へつぐ
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遠き日は吾子の手をひき道渡る吾子に支へられ道渡る今
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合言葉メモにまるめてそっと渡すそれがわれらの恋の始まり
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将来の遺影を残さむわが子らに八十路のわれと五十路の亡妻の
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歌作る幸 頼淑美
続きたる氷雨のやみてそれまでの時いたはるや冬の日柔し
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金色の光りふちどる山の端の彼方に夕日のっそりと落つ
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朝ぼらけ流るる雲の合ひ間よりほんのりのぞく日射しやはらか
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細道に夫(つま)の手をとる夕間暮れかの俳人の昔偲びつつ
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目醒まして若き小鳥と老い蝉の和して鳴く声聴く夏の朝
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カラカラと枯れ声繁く鳴く蝉も老ひの疲れか夏の日長し
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窓開ければ朝日に光る玉の露浅き緑に濃き緑添へ
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ひらひらと風に舞ひ散る桜花盛り過ぎても春を急ぐな
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手を取りて歩くデツキに身は軽く秋風ひかる南洋の旅
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フライパンで焼き焦がさる如く照りつけてなぜなぜなぜとお日様にきく
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「来月も又ね」と別れ行く友の背なに寂しき影添ひてあり
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暖かき夜風すがしく身に受けてメロディー聴きつつ歌作る幸
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笑ひさざめく 李英茂
フォルモサの子らはたき火を囲みつつ芋焼食べて笑ひさざめく
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生くるとは休む間もなき旅路かな川下りゆく稚魚を見つめて
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深ぶかと坐る主なき椅子ひとつ司馬の館の暖炉火消えて
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ひっそりと芭蕉句碑立つ苔の道軽井沢遠くざわめき聞こゆ
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いにしへの草津の町の湯畑を今も見つむる森の満月
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城山の合戦の跡に舞ふさくら木の間がくれに煙噴く島
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山狭の合掌村の厚き屋根深雪思ふ初秋の旅路
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黒岳に沿ふてリフトの駈け抜けば雪を被りし一叢の花
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波静か龍郷町の松の樹に西郷偲ぶ初夏のそよ風
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網走の冷たき牢に触るるれど百年の嘆き知る由もなし
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雪白き箱根の町の峠越え四月半ばの冬物語
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東京湾十里四方のパノラマをたなびく雲のビルより眺む
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手書きの歌集 李錦上
夜泣き子の何時しか眠り庭先に蟋蟀鳴きて月上がり来る
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夕つ陽の真紅に燃えて沈みゆく嘉南平野に秋は来にけり
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割り箸を折りたる如く蓮枯れて夕陽眩しく赤とんぼ飛ぶ
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燃えあがる炎のごとき仙丹花美はしく吾が家を囲む
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自販機の熱きコーヒーひとつ買ひ君と分け飲む終バスの驛
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糸なめて針の目通すありし日の母偲ばるるシンガーミシン
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赤白の冬至団子はぶくぶくと釜に沸き浮き笑まふがごとく
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薄型のテレビ益ます薄くなり奥行せまい世相を映す
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今年また吾が家の桜早咲きぬ良きことありや旧正迎ふ
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若き日の父の遺影の文官姿笑まふ眼差し凛々しくいとし
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荒海の波のうねりに生まれきし潮音かなしく台湾洗ふ
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懇ろに漢釈つけて子に残す手書きの歌集表皮絵を描く
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気がつけば 劉玉嬌
滴滴集粉川先生意気軒昂短歌長歌画の充積残映集
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ほれぼれと平之助師の滴滴集一気に詠みたり余韻かみしむ
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友のレター静心なく思ふ人いかなる人や扶桑のペンフレンド
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旧正を子らと出歩き戻る陋屋の木犀の香りにほっと安らぐ
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幼児は別れに涙ポロポロと真珠の粒と茶化す娘の目も
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声たてず泣く幼児をあやさんと「笑一笑」すなほに笑み又涙
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NHK「世界ふれあい街歩き」未知の国への語り口たのし
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ふと浮ぶ裕次郎映画の「狂った果実」台湾今正に狂ひし世相か
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ECFA台湾をあげての争論に馬耳東風のおためごかしを
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一人ぽっちの夜上を向ひて歩いたらつまづきころぶともじるおりて
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気がつけばヘトヘトの歳と佐藤愛子されど消灯ラッパ元気でゆかむと
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本を愛す井上ひさしの訃報きく蔵書は故郷へ錦をかざる
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