作品評‎ > ‎

15集-作品評8

黄教子選 その4

木欒子の並木黄に朱に移ろひて一際はなやぎ街並飾る          陳淑媛

 初夏に黄色の小花を花序につけるモクゲンジは、台北でもよく見かける街路樹です。房をなす黄色い花が咲いたかと思うと花を包む果皮が赤く色づき、遠めには赤い花が咲いているようです。秋になるとこの果皮は茶色く枯れて、風にカラカラと鳴ります。この一本は黄色い花の盛り、その隣は赤い花のような果皮になっているというように、街並を飾ってくれます。花の好きな作者は眼を細めて街並を楽しんでいます。

 

父親の行方不明に拘らず精神医学の道開きゆく             陳珠璋

 十二首ともに台湾大学精神科初代主任の林宗義教授のことを詠っておられ、作者は林教授と同時代の精神科医。父親の林茂生氏は東京帝国大学で哲学を学び、その後アメリカのコロンビア大学で哲学博士取得。戦後台湾大学教授をしていたとき、二二八事件直後に国民党に連行され殺されています。息子林宗義教授もアメリカへ招聘されてからブラックリストの人物となり、帰国できませんでした。「台湾精神医学の父」と讃えられる人で、その父林茂生教授とともに台湾の歴史に残る人であり、作者にとっても大切な人のようです。

 

四面仏は昔も今も微笑みと恵みを人らに送り賜へる           陳瑞卿

 カンボジアのアンコールワットを見学した時の十二首詠、四面仏を刻んだ塔が多数集ったバイヨン寺で、それぞれのお顔を眺めながら微笑みと恵みを千年にわたって送り続けていることに感動されたようです。長い間放っておかれたアンコールワットも今ではカンボジアのマイナスイメージを破る聖地として観光客を集めているようです。

 

雲の上に乗せられたがにひとりゆく空の彼方の孫子と逢ひに       陳清波

 遠く海外に住む子供やお孫さんに逢いにゆく作者は、一人で飛行機の旅。話し相手もなく機窓から眺めると雲、また雲、まるで雲の上にのせられて行くような気持ちです。座席にじっとして居るのは辛いものですが、雲の中を自在に飛んでいると思えば、ファンタジックで楽しいもの、それに何よりもお子さんやお孫さんが待っているのですから、期待で心は弾みます。

 

かもめ飛ぶ波止場に手を振り来年は帰ってくると泣きし日の顕つ   鄭 静

 空港での見送りはゲートへ向うとそれで見えなくなりますが、波止場での別れは船が遠のくまで姿が見えて情感溢れるものがあります。来年は帰ってくるからという約束は、一連のお歌から果たせなかったようです。日本で勉強なさった作者は、お祖父様の死により家業を継いだお父様とともに台湾へ定住することになったのですね。日本を祖国とも思っていらした作者、今は母国台湾で幸福に暮しておられます。

 

父の日のケーキにナイフを入れにつつ爺の日でもあると小さき孫言ふ   鄭埌耀

小さなお孫さんが父の日のケーキにナイフを入れながら、「お父さんのお父さんはお爺ちゃんだから今日はお爺ちゃんの日でもあるんだね」と気付いたようです。その時の作者の喜びはいかほどだったかと思います。小さなお孫さんの言葉には、このご一家の確実な生き方さえ感じさせてくれます。年々老いてゆく者と年々成長して行く者、若き世代が確実に成長している事がわかります。

Comments