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15集-作品評7

黄教子選 その3

今も尚化粧時間の長い妻気長に待とう朝の外出             荘進源

「気長に待とう」とは、実に良きご主人ですね。一家の主となった男性は、「グズグズするな、早くしろ!」などと急きたてる御仁が多いのですが、作者は優しい。奥様の化粧に理解を示して、奥様が十分にお出かけの準備ができるまで待っておられる。奥様のおっとりなさった美貌はご主人様の影響が大きいと納得。「台湾の環境保護の基礎築きわが半生に成就感あり」とも詠まれた作者は、台湾の水や空気汚染対策の先駆けとして活躍された方でもあります。

 

花の名を高砂百合と知りてゆりなじかは知らね直に恋しき       田上雅春

 高砂百合は鉄砲百合に似ていますが、花自体は鉄砲百合よりやや薄めで華奢、花被片の裏側に細い赤い線が入っています。生命力旺盛で野生に生えており、日本でも誰が植えたのか繁殖していると聞きました。百合は台湾を象徴する花でもあり、台湾を愛する作者がこの花を「高砂百合」と知ってよけい心を寄せたのだと思います。それはまた「新高山百合」を名乗る我等が歌壇のメンバー、黄敏慧さんによせる歌でもありましょう。黄敏慧さんのブログを読み、共感の多い作者が、新高山百合を褒めたたえる歌でもあります

 

故障したパソコン持って爺の家屏東に住むパソコン名医         舘量子

 パソコン名医は、屏東に住む元少年航空兵だった郭徳発さん。作者は郭さんと知り合いになって、身内のお祖父さんのように慕っておられました。元少年航空兵だった郭さんは機械に強く、八十路になってもパソコンを縦横にこなし、作者にホームページを開くようにと力を貸してあげたそうで、作者にとってかけがえのない人。惜しいことに、五月末、ご病気で亡くなられました。はじめて歌を作ったと病床で書かれたのが台湾歌壇四月号に掲載しました「知り合うていくばく

 

不景気の風吹きすさぶ年の瀬に紅葉の旅の小憎い誘ひ          張國裕

 漢詩の泰斗であられた張國裕さん、第十四集の十二首詠に十首だけ載っています。この原稿は亡くなられる一週間前に出されたもので、今思えば入院なさる前に何かの予感があってか、二首不足はしているけれど急いで投稿なさったのだと思います。最後まで短歌に寄せる思いの強かった作者は、美しい自然を愛し詠われました。「紅葉の旅の小憎い誘ひ」は日本からだったのではないでしょうか。作者のことですから、紅葉狩りを楽しまれたものと思われます。戦争末期、陸軍航空整備学校奈良教育隊で蔡焜燦代表と同期だった作者は、台湾精神、日本精神を持った詩人でした。

 

仏光の法衣に包み台湾に「台人」は居らぬと坊主はほざく        陳皆竹

 政教分離のはずの仏教界になぜかギラギラベトベトした政治色を前面に押し出す仏教界の僧侶がいるようです。宗教界が政治と結託すればもはや信教の自由はありません。純粋に仏教を信じている信者も政治の具にされて誠にお気の毒なことです。台湾は未だ成熟していないとはいえ、多くの先人の血と汗の努力で民主国家の形を成してきました。これを殺すも活かすも、現在ただ今をこの地に生きている方々の毅然たる観念にかかっています。作者の心は結句にはっきり表れています。

 

野花摘みシャボン玉とばす夕暮れは今日の散策道草道中         陳秀鳳

 忙しい毎日にも万歩計をつけて散歩を欠かさない作者の散歩は、「道草道中」で、途中で野の花を摘み、美しい景色に見惚れ、幼心に戻ってシャボン玉まで飛ばしての楽しいひと時のようです。庭や屋内にも季節の花を溢れさせ、ボランティアをやり、趣味の短歌を詠み、これこそが豊かな生活であると思います。

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