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14集-作品評5

潘達仁選 その2

帰宅せる家人各自のスリッパを違はず選び銜へ来るなり     蔡佩香

実に利口な犬です。私はペットを飼った事がないのでこんな利口な犬なら飼いたいと思いました。題名の「我が家の末っ子」とある通り作者が家族の一員と思うのも無理ないですね。短歌ですが連作であればこれで良いのですが一首の独立性を考えると結句は「ヘンリは銜へる」にしたいですね。銜へ来るの「は」は不要です。

 

十歳を鯖読みをして嘯けり罪にならざる老いの戯れ      佐藤厚子

連作中の第三、四、十の三首は皆若々しい短歌で又この一首も前向きな姿勢がはっきり見られます。ご本人は十歳以上鯖よみをして良い位若く見えるのですが謙遜して十歳にして居ます。南部歌会の錚々たるメンバーの面目躍如たる短歌です。

 

暖かき今年の冬におどろきて梅もはや咲く春の訪れ       周福南

梅の花が暖冬に驚くとは面白い発想ですね、今年は暖冬に加えて冷夏そして秋には猛暑が続く等の気象異変が続いて地球はどうなったかと思いやられます。結句は「春の訪れ」と言うフレーズで結んでありますが志貴皇子の「いはばしる垂水の上のさ蕨の萌え出づる春になりにけるかも」と島木赤彦の「高槻のこずゑにありて頬白のさえづる春となりにけるかも」の結句も名歌として有名であります。

 

逝きし子をひたすら憶ふ雨の夜を窓辺に来鳴く名の知らぬ虫   徐奇芬

世の中で白髪が黒髪をあの世に送るのは悲しい事です、殊に腹を痛めた我が子ですと年を経るにつけて悲しみや憶い出も増しましょう。雨の夜はその悲しさや寂寥感が一層募ります。結句に「名の知らぬ虫」を据えたのは自分の子に代わって虫が鳴いて居る感じがしたのでしょう。読んでしんみりさせられる一首です。

 

気張らずに老いを肯ひ「バーサン」と呼ばるる声をうれしく聞かむ                              徐奇璧

老いについて詠んだ短歌は沢山ありますが一時流行った言葉に「美しく老いむ」と言うのがありました。女らしい願いのこもった言葉ですがこの歌は更に一歩進んで「バーサン」と呼ばれる声を嬉しく聞きたいと言うのです。美醜に拘らず老いる事を素直に受け止めたいと言う心です。私もこの短歌にあやかって「ジーサン」の声を嬉しく聞きたいですね。

 

曇る日の野原涼しや彼岸へと渡る小川の春水ぬるし       徐誠欣

作者は先頃急逝されたそうです。淋しい事ですが歌友が一人減りました。謹んで哀悼の意を表します。

黙祷、そして合掌!

この短歌は宛も氏が死を予知した辞世の様な短歌です、辞典によれば彼岸とは文語的には向こう岸、仏教では悟りの世界で最高の境地とあります、普通はあの世のことですね、あの世へ渡る小川とは三途の川でしょうか? 時正に晩春でしょうか? 淋しく悲しい短歌と受け取りました。

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