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14集-作品評3

鄭埌耀選 その3

澄み渡る大空見つめ「日本晴」と教はるる彼の日も七十路の昔  江槐邨

七十年前の小学校での勉強は立派な日本人になる為で、その日本は世界一素晴らしい国、澄み渡る青空は日本晴れと教えられた。今でも澄んだ大空を見上げる度にこの日本晴れが口をついて出る。作者の青空への想いは純真無垢であった少年の日への追憶につながって行くのであるが、あれから苦難の日が続いた丈に此の作者にはあの遠い日の思い出は格別に強く残っているに違いない。

 

前後して帰省せる子らの好物を求めて夫はぺタル踏みゆく    高淑慎

アメリカとベルギーから子等が相呼応して帰って来た。子供達の台湾での好物は分かっている。御主人が早速と自転車で出かけ客間からは母子の談笑が聞こえて来る。初日は店屋のグルメで済ませ次からはお母さんの厨での懐かしい手料理となるが一家三代の団欒の日がこれから続く。一連の作は帰省の子等との事を詠んでいるが此の一首丈で親子の逢う瀬の喜びが充分伝わって来ている。

 

休日の朝市あまた並びゐて笑顔交はせる老夫婦目につく     高寶雪

休日の日の朝市は格別賑わい人出が多いので籠もりがちのお年寄りには格好の買物兼散策の日である。見識りの人に声を掛けたり掛けられたりするのが楽しみであるが、ふと連れ立って笑顔を見せている老夫婦が目についた。御主人を失って間のない作者には妬ましくそして耐え得ない程の傷心のひと時があったに違いない。一連の作品は何れも隙のない佳作である。

 

騒がしき無情の都ふり棄てて静けき村に住みて幾年ぞ      黄華浥

騒々しく人情味のない都市を捨て作者は妻子をつれて三峡の地に移り住んだが、此の憧れの田園村落は発展の掛け声に並木は切られ、車は飛び交い、都市化するのに幾年とはかからなかった。故郷を恋う様に作者はあの頃の稲田の緑と村の静かな風景を懐かしんでいる。田園の風情を奪われた作者はその嘆きをこの一連の作品で述べ、この歌の末句の「住みて幾年ぞ」で天を仰いだのである。

 

式終へて幾百のハト一斉に羽ばたき飛びぬ平和目指して     黄昆堅

鳩は平和のシンボルとされている。それで屋外の集会や催し等では幕引きとして幾百羽もの鳩を一斉に飛ばす事があるが篭から出され夫々の方向にとゆく様は大きい解放感を与えて呉れる。これを借りて自由と平和を謳おうと言うのであるが、自由が来なければ平和はない。台湾に真の自由が獲られるまで作者と共に鳩を妬み続けよう。

 

今居ればもう傘寿ですお友達元気で居るの居ります様に     黄女辛花

「若し居れば」とは切ない前提であるが、齢のせいで万事におっくうになり互いに無沙汰で居ると何時の間にか誰かが居なくなり訃報さえ来ない事もあるのでうっかり電話もかけられない。此の齢で元気ですかと尋ね、次いで元気である様にと祈る作者の優しい心情が見られ寂しさはいや増すのである。

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