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14集-作品評10

黄教子選 その1

火の玉の如き夕陽を背に受けて銀の翼は靄の彼方に     毛燕珠

夕陽を背景にして作者は銀の翼をつけて飛んでゆきたいような衝動を覚えているのでしょうか? 火の玉のような夕陽は或いは作者の心に燃える熱い炎なのかもしれません。しかし銀の翼は霞の彼方にあって、実際には飛んでは行けないのです。背に受ける夕陽の熱と自身の熱い心を感じつつ、霞の彼方をじっと見つめる作者。十二首詠のなかのこの一首に強く惹かれました。

 

水の結晶写真見てより誰しもが不思議なる美に心魅かるる   游細幼

「水の結晶」という本を読んでの感想を十二首詠にされています。顕微鏡で見る水の結晶の不思議さに驚いておられる作者に精神の若さを感じます。水は快い音楽の中では美しい結晶を見せ、騒音の中では崩れた形に結晶するそうですから不思議です。人間の身体も七十パーセントくらいは水分だそうですから、環境によって影響を受けやすいのも納得がゆきます。私達も美しい結晶を遂げたいものです。

 

亡き友のくれし手紙を読み返しまた読み返すただになつかし  姚望林

手紙を整理処分しようと思っても、取り出して読み始めると、なかなか処分できないものです。ましてや今は亡き懐かしい友の手紙ともなると、とても捨てられるものではありません。読んでは当時を思い出し、また読み返して亡き友を偲ぶ様子が浮かぶようです。

 

手を取りて歩くデッキに身は軽く秋風光る南洋の旅      頼淑美

パートナーと手を取り合って船のデッキを歩んでいる浮き浮きとした楽しい気分が「身は軽く」「秋風光る」などの言葉から溢れ出ているようです。幸せだとか楽しいとかの言葉を使わなくても、歌の調べに自ずと躍動しており、幸せの真っ只中におられる作者。南洋の旅はきっと素晴らしい思い出を残してくれたことでしょう。

 

生くるとは休む間もなき旅路かな川下りゆく稚魚を見つめて  李英茂

鮎や鮭など川を遡り産卵して死ぬ魚の稚魚は、川を下り大海へ出てゆく大冒険の後に、また生まれた川に返ってきて、同じく産卵して死にます。その一生は実に休む間のない旅路です。それは人間にも言えることだと、川を下る稚魚を見つめながら感慨一入の作者。作者もまた休む間もなく生きてこられました。教員を退職した後は、郷土のために文化面のボランティア活動に尽力し、宜蘭県の最高の栄誉であるカバラン賞を受賞されたばかりです。

 

薄型のテレビ益ます薄くなり奥行きせまい世相を映す     李錦上

ハイテクの発達に伴って、液晶ディスプレーを使用した薄型テレビが出回るようになりました。薄型だから携帯用、壁掛け型、大画面などの多様な製品が可能となりました。しかし作者はテレビが益々薄くなることを「奥行きせまい世相」を映し出していると指摘するのです。科学が発達して生活が便利になってゆくのはいいことだけれど、奥行き狭い人間、奥行き狭い社会になってはだめだと一喝しているようでもあります。

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