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13集-作品評3

黄教子選 その3

介石に虐げられし若き日日今また結石とふ石に苦しむ     江槐邨

「日本は原爆を二つ落とされたが、台湾は石を一つ落とされただけで戦後ずっと酷い目に遭った」と台湾の方はよく言われます。作者は十代の後半、無実の罪で十三年も辛い牢獄生活を送らなければなりませんでした。風邪一つ引かないほど健康だった母親は心痛の余り、作者が捕らえられて一年も経たず亡くなられています。肉体的にも精神的にも蒋介石政権に虐げられた作者。台湾の民主化でやっと安穏な日々が過ごせると思ったけれど、「結石」という石に今度は苦しんでいると己を苦笑いする作者には、どこか精神的な余裕を感じます。

 

君逝きて我生き残る皮肉さよいざ生き抜かん君のぶんまで   高錦東

「君」とはごく親しい友、或いは伴侶のことでしょうか。「君」のほうが長生きすると思っていたのに、自分だけ生き残ったことを「皮肉さよ」と詠んでおられ、取り残されたことに戸惑いを感じておられるようです。でも下の句で、君のぶんまで生き抜かんと決意されたようで、ほっといたしました。人間どんな環境に置かれても、そこで生き抜くのが人生の智慧でしょう。

 

吾子の着るアラン模様のセーターをほめられしと子異国の便り 高淑慎

「毛糸編む」の十二首、作者が子や孫にせっせと編み物をした姿が目に浮かぶようです。息子さんのために編んだ縄模様のセーターは、異国の地で褒められたようで、それをまた息子さんも喜んで祖国のお母さんに報せたのですね。手編みのセーターなんて本当におしゃれの粋だと思います。大切に着て、大切に保存する気持ちにもなります。編み物は肩が懲り大変ですが、着せてあげたい子や孫のことを思いつつ編んだ日々は、幸せの時だったと思います。

 

僅かなる睡眠薬をかぞへつつ夜の不安の時刻はじまる     高寶玉

毎夜、睡眠薬に頼って眠りに就く病気がちの人にとって夜は不安な気持ちに陥りやすいものですが、まして一人住まいともなれば、不安は一入でしょう。

考えなくてもいいことばかりが浮かんでくるのも、長い夜の孤独と不安からでしょう。でも作者は不安な夜を重ねつつも、自分を見つめてしんみりと境涯の歌を詠み続けておられる芯の強い女性です。

 

怨霊よ秋は又来ぬ眠れずば我と語れよ幼なき日日を      黄華浥

この一首の前に「若くして尊き命奪はれし友丁桂昌よ金木山よ」という歌があり、この怨霊とは作者の幼馴染でしょう。白色テロで二人は秋に処刑されたのでしょうか。友のことを思っていると眠れなくなる作者は、怨霊と幼き日々を共に語り合いたいと呼びかけて、無念な思いのまま亡くなった友を偲んでいます。白色テロの被害を蒙っている作者自身の、悲憤慷慨遣るかたない絶叫として受け止めました。

 

一日を古きアルバムと過ごしたり若き日はわが永遠の宝    黄閨秀

都市を重ねるに従い、昔のことが思い出されるもののようです。仕事や家事の忙しさからも解放され、作者は若き日の幸せな時代のアルバムを捲って、回想に耽ったようです。晩年に心を満たしてくれるのは、美しい思い出だと常々思っているのですが、永遠の宝ともいえる若き日を持つ作者は幸せな方です。精神の豊富さをこれからも積み立ててゆきたいものです。

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