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13集-作品評10

徐奇芬選 その1

梅雨晴れて夏日あまねし相思樹の森を日増しに蝉しぐれ降る   游細幼

「山里の吾が家」の中の一首で森なす相思樹に宿る蝉が梅雨晴れて一斉に鳴き出した身近かな光景がそのまま詠まれて居ます。喧騒な都内を離れて此処に移住し作者の詩情はますます豊かになる事でしょう。

 

突然に吹きくる風にわが帽子渓流の渦にワルツを踊る      姚望林

ピクニックに行った時のひとこまでしょうか。渓流を渡って行く時、被って居た帽子が突風に飛ばされ行った様をいともユーモアに詠んだこの一首に微笑みが浮かんで来ました。渓流の中で帽子がワルツを踊って居るように見えた作者は残念さをユーモアで消して自己安慰して居る開豁さと心の若さが見えて来ます。

 

パソコンのゲームにテレビアニメーション孫の世界の近くて遠し 李英茂

近代の人は何もかもパソコンで捌き特に学生たちはアニメーションに浸って親達との会話が少なくなって居る現象が多く見られます。祖父母にお噺をせびる事はもう少なく彼ら一人の世界で長い時間を過す事が出来ます。故に傍らに居る孫はあっても心は遠ざかって居るのが現状のようです。その淋しさを作者は淡々と物語って居ます。

 

転寝の魚屋の主の前掛けをぴくぴくと嗅ぐ小さな黒猫      李錦上

商いが終って客も去り少し疲れた魚屋さんが転寝して居る時、小猫が魚の臭味が残る前掛けをぴくぴく嗅いで居る様子を捉へた作者が見えて来ます。小さな動作を一首に仕上げた作者の敏感な詩情と功力に感服します。この情景を想像して思はず微笑みしました。小さな黒猫と結んだ所にこの一首の全景が目の前に見える様です。

 

人に会はぬ道が嬉しや風涼し仰ぐ秋空台湾をし思ふ       劉玉嬌

人の通らない道を一人で涼風をエンジョイしながら秋空を仰いで行く作者は愛国者です。何時何処でも祖国の現状や未来を思慮する愛国の士とでも言へましょう。愛国者と自負し乍らも他人と口論する事もなく一人で道行くたまゆらの安らぎを感じて居る作者の心情が察せられます。

 

我が娘祖母になりたり新しき祖母の笑顔の美しきかな      劉心心

娘が祖母になった顔が美しいと詠む作者はその前の一首に『日出たしや曾祖母なりを人言えど「ひいばば」と言ふ名になじみえず』とあります。女性が娘から妻にそして母となりやがて祖母になる経緯を誰も免かれません。格が上がる嬉しさの裏にはやるせない淋しさがあるのが女心です。祖母になった娘の笑顔が美しいと詠んだ作者にも嘗てその時がありました。祖母になった娘の笑顔が美しいと詠んだ作者の内心のこまごまが感じられます。

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